5時間目 英語
昼食の後の英語の授業は眠いらしく、このクラスの子達はいつも机に突っ伏して真面目に授業を受けてくれない。
しかも今日は昼休み前に、家庭科の授業で調理実習をやったはず。
朝に高橋と吉田が嬉々として報告してきたから間違いない。
星野は、リスニング用に持ってきたラジカセとCDを重そうに教卓に置いて、テキストを開く。
「今日は56ページです」
ページを指定したところで、高橋が元気よく手を挙げる。
「ほっしー!」
「ん?」
「そのラジカセってリスニングCDしか聴けないの?」
「そうだね」
星野は、あごに手を置き少し考えた後、
「洋楽とかならいいんじゃないかなぁ。あ、ナルヒのキャラソンとかはダメだよ!」
にこりと笑って答える。
「じゃあ英語入ってるCDならいいってことかぁ!」
高橋は、両手を天に突き上げてテンションをあげていた。そして、おもむろにクラス全員が立ち上がり
「ほっしー。ごめん」
「今日授業潰しちゃう」
「ちょっと行くところがある」
口々に謝りながら、廊下へと出ていってしまった。
いきなりのことで、星野は一瞬フリーズしかけたが追いかけなければいけない。
仲良しだと思っていた生徒達に授業をボイコットされ、やっぱり僕はノロマで役立たず。誰からも愛されない人間なんだ、と思ったところで、星野の目頭がギュッと熱くなった。
かなり前の方に階段を上ろうとする高橋と吉田の後ろ姿が見えた。
解放されているとはいえ、もし屋上なんかに行かれたら、危ないと気づき星野は走るスピードを速める。
今は、他のクラスは授業中だ。
静かな追いかけっこが始まった。
高橋と吉田は、こちらをちらっと振り返り「気づかれた!」という顔をして、階段を3段飛ばしで駆け上がる。
「こ、転ばないでね!」
こんな時でも一応生徒の心配をし、自分も転ばないように2段飛ばしで階段を駆け上がる。
高橋と吉田は、なぜか家庭科室に入っていったようだった。
ドアの前で息を整え、中の様子を伺おうとしたら、ガラスに黒の画用紙で目隠しをしている様子だった。一回深呼吸をした後、意を決してドアを開ける。