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2時間目 数学


 チャイムが鳴った瞬間に、ふわりと入ってくる数学教師の高瀬。


「宿題やったかぁ?」


 無造作な髪を邪魔くさそうに払い退けながら聞く、いつもの口癖だ。


「やってませーん」


「正直だな。でも高橋はお前、もう3回も忘れてるからグラウンド10周行ってこい」


「嘘です、嘘です。二次方程式だけやりました!」


「それ一番簡単なとこじゃねぇか」


「す、すみません。僕も数学苦手で二次方程式しかできませんでした…」


「小原はいつも真面目だからしょうがないな!」


「マジかよ!オバだけずりぃ!!!せめて教室内10周にしてください!」


「いやいや、高橋、お前も真に受けなくていいから。とりあえず授業を始める」


 いつもなら寝るか携帯をいじっているかの学生達だが、なぜか今日は黒板をきちんと見ながらノートを取っているし、宿題を忘れた奴は一人もいなかった。


『不気味だ』


 高瀬は心の中でつぶやきながら、眉をしかめた。

こいつら、何かをする気か?それとも心を入れ替えたのか?


 授業も中盤に差し掛かった時に、高瀬はおもむろに教科書とワークに挟んであった折り紙入りの袋を見せる。


「今日は、時間に余裕があったらやろうと思って折り紙を持ってきた。確率の問題やるぞ」


「折り紙!」「きた!」「宿題やってきてよかった!」


 折り紙の入っている袋を見せた途端にざわつく教室内。

なんだ、なんだ。


よくわからなかったが、こいつらのことだから紙飛行機でも折って遊び始めるのではないか。


「お前ら折り紙で遊ぶなよ」


「大丈夫です!折りませんから!」


 高橋があどけなさの残る笑顔を向け、「確率かぁ」とこぼす。

すると周りも「やっぱ金色か銀色がいいよな〜」「俺は青か緑狙い」「まぁ何色でも大丈夫っしょ」と話し始める。

なんだ、なんだ。


 このクラスで一番真面目な、クラス委員長の早坂を見ると目が合い、気まずそうにぺこりとお辞儀した。早坂の手には、しっかりと金色の折り紙が握られていた。


 前半の集中力は微塵も感じさせないくらい彼らが折り紙ごときで騒ぎだしたので、あっという間にチャイムが鳴ってしまった。


「お前ら前半の集中力はどうした!」


 最後に一括してやると、早坂がおずおずと手を挙げ、それを高橋が微笑みながら制止して説明してくれた。


「…なるほど」


「先生、この埋め合わせは必ず!」 


クラスの全員が頭を下げてくる姿にギョッとしながらも、


「次も全員宿題やってくればそれでいいわ」


一言つぶやき、折り紙の入っている袋を高橋にポンと渡した。

高瀬の頬は、緩んでいた。

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