翔くんと歩ちゃん 2
この街は四方を壁で囲われている。見えない透明な壁だがその向こうは見えない。見えないので高さも不明だ。今までの流れからして通れないものと思った方がよさそうだ。天上にもあるかどうかはわからないが、そういう窮屈さはない。透明な分、側面の方もその付近に行かない限りは感じないだろう。街と言っても人の足では歩ききれないれない程の広さがある。一つの世界を形成するには十分だろう。まあ、普通にでかい。
そのちょうど角にあたる場所。一応、田んぼなどの自然は皆無だが壁付近は田舎と呼ばれる。当て付けではないだろうが、建物の密度も多少低い。電子公告は相変わらずなようだ。実は暗示用なので当然ではあるが。
角にピッタリ建てられているのは学校。今は平日の昼間だが人気はほとんどない。というか、確認できるのは屋上で足を投げ出して座っている少女(制服を着ている高校生)だけだ。ちなみに、もう強化人間ではないが霊子体のおかげか地上からもはっきりと目視することができる。
少女がその手に持って眺めている目玉もくっきりと。
歩「へ、へへ、翔くんのお目目」
優「最近の奴は濃いな。俺も顔負けだわ」
アルル「それは負けてる場合じゃないね」
飛鳥「今のままでいいんじゃないですか」
アルル「まあ、主人公は大味だからね」
優「嫌なこと言うな」
と、そこに玄関のガラスの扉を開いて一人の同じ年頃で同じ制服を着た少年が現れる。
片目がない所を見ると翔くんで間違いなさそうだ。
優「眼帯しないとばい菌入るぞ」
アルル「そこかい」
翔「そうですね。包帯でも巻いておきます」
アルル「そして冷静」
飛鳥「お役目大変ですね」
アルル「一応、マスコットキャラクターだからね」
優「そうだったのか」
翔「やっぱり裁きに来たのですか?」
優「ぶっちゃけ言われて来たからな。どういう状況かもわからん」
翔「残念ながらお察しの通りです。歩ちゃんが少しはしゃいでしまって」
優「雰囲気からして一般人だろ?電脳能力、いや電脳粒子恐るべしだな。応用力が半端ない」
翔「都合のいい話になりますが、僕も歩ちゃんもここから出る気はないのでこのまま放っておいていただけるとありがたい限りです」
優「そうだな、俺は文句なしだ」
アルル「同じく」
飛鳥「私もですね」
優「となると、帰るしかないか」
飛鳥「イメージするだけなら対戦相手はいりませんからね」
アルル「とんだ無駄足だったね」
優「無駄がない人生も逆に嫌だけどな。いろいろ揶揄されてるが、ゆとりぐらいはないとな」
アルル「他の道を潰されて体の良い道具にされるわけだね。決まったレールは恐い恐い」
優「今日は黒いな」
アルル「ババァの所を強調してみました」
優「そうだったのか」
翔「では、歩ちゃんの気が逸れている間にどうぞお引き取りください」
優「とはいえ、このままじゃ味気ないな」
飛鳥「早くしないとアカシャが来そうな気がします」
優「仲良かったのか?」
飛鳥「あなたと同じく良くしゃべりましたね」
優「良し悪し抜きにしても窮屈な世界だからな。愚痴の一つも言いたくなる」
アカシャ「そもそも民主主義が間違いなのよね。ろくな主義もないくせによく言うわ」
飛鳥「自分で言っておいてなんですが、当然の如く現れるんですね」
アカシャ「神を創るよりは、王の方が数段いい。まあ、その器がいないから拒絶されたのでしょうけど。仮にそれ程のカリスマを持ったリーダーがいれば、民主主義と謳いながらそいつにすべて押し付ける。いなくてもそうしているけどね。よくいるでしょう、言うだけで何もしない奴。評論する暇があるなら自分がやればいい。ガキじゃないんだからまずは誠意を見せてほしいわ。私見たいにね」
優「それで今の現状というわけか」
飛鳥「今の時代ではくだらない話です。そうでしょう、優」
優「少なくとも、屋上の歩ちゃんにはご立派な主義があるみたいだな」
アカシャから電脳の翼が出現する。
ナビ『対象二名のロックを完了しました』
その対象は翔くんと歩ちゃん。二人は一瞬で消滅した。
優「げっ、俺が言ったからみたいになっちまった」
アルル「見事に背中で語ったね」
優「そうだな。そっと胸に刻んでおこう」
飛鳥「……」
アカシャ「あらあら、飛鳥はいい顔だけどそっちの二人は邪魔ね。とはいえ、顔見知りの方が効果はある。精々そのぐらいの役には立ってもらいましょうか」
優「はは、知ってるぜ。視界に入らないと発動できないのは」
アルル「ちょうど二人共スピードの素養があるみたいだしね」
ナビ『対象二名のロックを完了しました」
優「……」
アルル「まあ、とっくに入ってたよね」
優「おいおい、さすがに笑えないぞ」
アカシャ「笑えないのはこっちよ。ちっ、蘇芳め」
優「あ、しゃべれた時点で生きてたのか」
アルル「凪デジャブだね」
飛鳥「なんであなた達はそんなに呑気なんですか。そこが魅力であり、そういうところが大好きですが」
優「デレデレだな」
アルル「よかったね」
優「まあ、悪くはないな。が、性欲はお断りだぞ?」
飛鳥「それはもういいです」
アカシャ「ベラベラ鬱陶しいわね。どの道結果は同じよ」
飛鳥「そうですね。気づいていないところを見るとそのようです。案外大したことないですね。そうなると、あの二人をみすみす消させたのは悔やまれるところです。私の方が格上だったわけですから」
アカシャ「蘇芳の仕業ではなく、電脳能力ということか。なるほど、確かに大したものね。誰にもできることじゃない。現に凪クラスでもあっさり消えたわけだし。相性があることを差し引いても私の見誤りがあったことは認めざるえないわ」
優「防御系の何かか?」
飛鳥「守ることよりあの能力を何とかしよう、と思ったら使えなくできたみたいです。防御と言えなくないですが、封印みたいなものでしょうか。そいえば、いつの間にかメガネまで出てますね」
アルル「あ、本当だ。メガネ掛けてる」
アカシャ「能力をバラすなんて余裕ね。それとも平和ボケかしら」
飛鳥「前者ですね、もう勝負は着いています。この能力が効いた時点でね」
そう言った側からアカシャの背中の翼が消滅、いや封印される。
飛鳥「格下にしか効かないみたいですが、格下にはどうにもなりません。よくある話ですね。漫画とかでですが」
アカシャ「はっ、なら現実を見せてあげるわ、一般人」
アカシャが汎用型のレーザー銃を精製する。
アカシャ「私は銃口読みができるけど、一般人はどうかしらね」
飛鳥「できますよ」
飛鳥はそれに対し刀を精製する。
飛鳥「もう霊子体でこんな能力まで持っていてなんですが、あなたがそこまで言うならここは敢えて一般人代表ということにしておきましょう」
アカシャが引き金を引く。
飛鳥は避けることなく、そのまま真正面一直線にアカシャに向かって行く。
アカシャの狙いは頭。そこならさすがの霊子体も動きが止まる。
飛鳥の頭にレーザーが直撃する。が、吹き飛ぶどころか傷一つ付いていない。
アカシャは飛鳥を止めることができず懐に飛び込まれる。
飛鳥は刀でアカシャの胴体を横一直線に切断。
アカシャも霊子体のはず。その証拠に断面は内蔵ではなくただの薄緑色に発光した平面。血も出ていない。
が、再生されることなくそのまま電脳粒子を舞い上げ消滅していった。
再生能力を封印した、ということか。
優「いきなりすごい飛躍だな」
飛鳥「そうですね。私達がけしかけるまでもなく、停滞期はもう越えたみたいです」
いつの間にか屋上に等身大の翔くんが歩ちゃんを肩車している銅像が建っている。
優「肩車ブームか」
アルル「そっちかい」
飛鳥「一般人の意地、愛の証というところですね」
優「俺もそろそろ気合入れないとな」
アルル「それ前も言った」
優「マジでか」




