無情 6
教会内。中央の通路の両側では長椅子に座った黒いフード付きのコートを着た信徒達がフードを被り顔を伏せ、自分にしか聞こえない程度の小声で何やらブツブツと言っている。
通路の先には綺麗に装飾された台形の祭壇。その上には凪が座っている。
そして通路を突き進むのは俺こと優、そしてアルルだ。
優「案外いろいろやってるな」
凪「まあね」
優「いっそ一緒にくるか?」
アルル「出た、伝家の宝刀」
凪「ま、それはないけどね。半分フェイだし」
優「そんなもんか?」
凪「とりあえず、一回ぐらいはやっとかないとね。人間は経験する生き物、とはよく言うでしょう?」
優「そうだな。だが、そういう自由もいいが愛も必要だ」
凪「へー」
凪が珍しくすっごい目でこちらを見ている。
優「無論、そういう直情的な意味じゃない。言い換えるなら、ゆとり、器の大きさか。嫌いなものも受け入れる度量がないとな。嫌なものは即排除、じゃ人生つまらないぞ」
凪「今は豊かさを求めるより試してみたいのよ」
優「白黒つけないと駄目か?」
凪「仮に負けた時は、天国か地獄ででも見守ってあげるわ」
優「信じる信じない以前に俺が認識出来ないんじゃ、な。お互い寂しいだろ?」
凪「暇過ぎると正論だけじゃ駄目よ」
優「暇は毒、とはよく言ったものだ。死んで暇じゃなくなってもな」
凪「話としては綺麗でしょう?どっちに転んでもね。美学というやつよ。こういう無駄な部分こそ人間というべきでしょうね。現に、人間にしかないわけだし。そうなると、少し獣臭いんじゃない?生死、生存本能。まさに獣ね」
優「そうは言っても死んだら終わりだろ?」
凪「だからあなたは弱いのよ。存外、一般人寄りなんじゃない?例えば破壊衝動、それこそ獣臭いと思うかもしれないけど、目的なく破壊できるのは人間だけよ。目的なく、無意味にね。そういう原初的な貪欲さが足りないのよね。それじゃ機械でも真似できるわ。よくある話でしょ?人間のようなロボットとか。もはや機械以下って言われているようなものね」
優「なるほどな。言葉にされると手痛いところはある」
凪「まだいまいち実感できていないようね。致命的よ、人間として」
凪は話は終わったとばかりに祭壇から立ち上がる。
凪「さて、信徒の中にお仲間が紛れているようね。私はその中からアカシャのお気に入りを探すわけか」
優「残念ながらもう終わりだ」
ナビ『対象一名のロックを完了しました』
その機械音と共に手を繋いだ状態の飛鳥とネクラが現れる。場所は正方形になっているこの建物の出口側右角だ。それなりに大きな教会だがちょうど全員座ってしかも顔を伏せているので、そこなら全体を見渡せる。少なくとも、祭壇に視線を送るのは余裕だろう。
凪「ステルス能力と一撃必殺か。やられる方としては冗談きついわね。まったく恐いものね、抑止力というのは」
優「それは考え過ぎだろ。人間はもっと自由になれる」
凪「そうなると文字通り力不足ということね」
優「この場合はコミュニティーかもな。群れるというと獣臭いかもしれないが、必然性、利便性以外で群れられるのは人間だけだろう?敵役は孤立しやすいからな。案外、理由なんてそれだけかもしれない。現に大人しく俺とコミュニティーを築けば助かったわけだし」
アルル「わかりやすく言うと、愛だね」
優「愛と平和、ちゃんと解釈すれば馬鹿にできないかもな」
凪「まあ、正直あなたに言いたい事を言えたからそれでいいわ。もちろん、最悪での話だけど。否定はしないけど、先に言ったことも忘れないことね。戦闘力云々抜きにしても人間としてね」
優「ベタな言い方だが、肝に銘じておくよ」
凪「それにしても消えないわね。何かノリで最期の言葉をペラペラしゃべったけど、そもそも猶予なく消えるんじゃなかったかしら」
優「このままそういう流れになってくれれば、俺の反論も生きるんだけどな」
ナビ『第二フェーズへの移行を確認しました。よって指定されていた対象への執行を開始します』
何が起きたか確認したのはすべてが終わってからだ。俺とアルル、張本人の飛鳥以外のすべての人間が消滅した。
せめてもの名残とばかりに、電脳粒子は淡い緑色の光を発し舞い上がっていく。
アカシャ「見栄えはいいわね。血塗れも嫌いじゃないけど。この理不尽さがいいわ。文字通り、為す術なしってね」
教会の入口から堂々と入って来たのはアカシャ、つまりそういうことだ。
アカシャ「一番好きなのはその顔だけどね。私はこの状況を創りだす為だけにこの街を動かしているの。何だかんだで正義の為と思っていたようだけど残念だったわね、飛鳥。そしてもう一つの間違いは私と同じ舞台に立っていたと思っていたこと。蘇芳は多少買っているみたいだけど、所詮は多少程度。クズはどこまでいってもクズ止まりね」
飛鳥の体から淡い緑色に発光した電脳粒子が漏れ始め、それはアカシャへと流れて行く。
アカシャ「それでも私好みに回れただけ上出来よ。褒めてあげるわ。それに比べておまえは腑抜けた顔ね、新入り。逆にそういう顔が一番嫌いなのよね。私はこう見えても人間を愛しているのよ。もう少し感情を出して欲しいものね。おまえは一番のお気に入りらしいけど、あいつももう歳かしらね」
電脳粒子の流れが止まる。
アカシャはさっさと踵を返し外へと向かう。
アカシャ「その時までは放っておいてあげるわ。まあ、あえて手をだす気もないけど」




