回想:凪
五年前。そこは海上に造られた反吐が出るような場所。大きさはそれ程広くはない。一施設程だ。
凪「はー、糞虫が最期にやってくれたわね」
私の目の前にいるのはここの主犯格。椅子に座ったまま、首を落とされた状態だ。名前なんて最初から覚える気はない。自分も似たようなもの、同じ人間とは思わない。結果はもうすでに出ているのだから。それに対処するだけでいい。
蘇芳「避けようと思えば避けることはできる。これで死んでも、自己責任。そんなに毒づくこともないだろ」
凪「それで毒づかない理由にはならないけどね」
蘇芳「ま、それはそうだ。で、律儀に確認しに行くわけだな」
凪「仕事は終わった、と言いたいならその通りだし、あなたは帰ってもいいのよ」
蘇芳「知らないのか?俺は付き合いいいんだぜ」
凪「うわー、すっごい初耳」
私は確認の為に地下へ向かう。この施設の目的は監禁。定期的に子供を集めては、地下の牢獄に監禁していたようだ。売り飛ばさずに、牢獄で飼い殺す。理由はただの趣味。金持ちの道楽。悪趣味とは文字通りこのことだ。で、その牢獄の中で何が起きているのかというと、牢獄の天井には一丁の拳銃がアームに吊るされている。飽きたらそれでということだ。すぐに殺してもつまらないらしい。アームの狙撃速度は遅めだ。子供でも十分避けられるだろう。それだけの生気と体力があれば。下手に操作するわけにもいかず、こうして直接回収に向かっている。
近くの牢獄を覗き込む。そこにあるのは子供の死体と静止したアームに繋がれた拳銃。どうやら役目を終えれば止まるらしい。と、いうことは今鳴り響いている銃声は役目を終えていないということだ。私は敢えて歩く。その生気を感じる為に。
牢獄の中には一人の男の子。十分な食事、トイレ、ベットもある。が、こんな牢屋に閉じ込められて3日も持てばいい方だ。すぐに精神は狂うだろう。少年は立ち上がり、軽快と言っていい動きで銃弾を避けている。何故かそこで愛おしいさを感じてしまった。
凪「出る?」
優「出る」
その言葉に迷いはない。子供らしい素直な気持ちだ。
施設から出て陸にあがればそのまま別れるつもりだったのだが、以外にもついて来れたので持ち帰ってしまった。完璧、ツボにはまったらしい。
本拠地に帰る道中。今は道路を歩いているところだ。
蘇芳「連れて行くのか?」
凪「そうよ」
蘇芳「断言したな。ま、俺はイレギュラーを愛する男だから、むしろ歓迎するけどな」
凪「あなたが一番邪魔しそうだけどね」
向こうから人が現われる。同じ天使で、同じ『蛇』の一員、フェイだ。
フェイ「何の冗談だ、凪」
凪「くっ」
ついこんな漫画みたいなリアクションをとったのにはもちろん理由がある。蘇芳がイレギュラーを愛す男なら、フェイはイレギュラーを嫌う女だ。真面目、堅物。そこが割りと好きなのだが、こういう時はかなり困る。私以上の戦闘狂。実力も折り紙つき。長い付き合いだからこそ、冗談抜きで私ごと殺されるんじゃないかと思う。さすがにそんなことないか?やばい、断言できない。
凪「そ、育てるんだよ、馬鹿野朗」
それで決壊した。優を抱えて空へ。そして私のデレデレ生活が始まった。
フェイ「仕事だ、行くぞ」
蘇芳(八つ当たり決定だな、これ)