醜悪祭 2
ヘイを廊下に呼び出す。
ヘイ「お、おう。何か揃ってるな」
優「もうおまえはいいだろ」
霞「そうだな」
ヘイ「残念ながら、言いたいことはわかる。そして、そうしよう」
優「その判断で器が少し大きくなったな」
ヘイ「それはよかったよ」
優「それでどうよ?あの二人」
ヘイ「じゃあ、かなり言いづらいがすべて話そう。シャルが好きなのは霞で、葵とそういう関係になったのは霞を取られそうになったからだ」
優「なるほど。これで理由はわかったな。これ、どうするんだ?」
飛鳥「私はお手上げです」
ヘイ「俺は言わずもがなだ」
霞「それはそうと、どうやって知ったんだ?」
ヘイ「蚊帳の外の分というのもあるが、普通におまえが鈍いというのもあるな」
霞「まさかおまえに言われるとは」
ヘイ「俺の立ち位置すごいな」
その時、外の方から狂騒がたち始める。祭りの熱にしては異常だ。文字どおり、音や声が狂ったように騒ぎたち増大していく。
優「ナイスタイミングといえばだな」
飛鳥「さすがにそれは楽観的過ぎと思います。そういえば、私とお父様、蓮と那綱は普通に抑止解放されていました」
優「心が病んでいたから先に来たのかもな」
飛鳥「まあ、否定はしません」
屋上。そこにいるのは俺達4人だけだ。扉は閉めてある。鍵はピッキングだ。立場上、そのくらいはたやすい。目的は避難。もうここら一帯すべて抑止解放済みだ。
優「はしゃいでるな。麻酔も効かなかったし、嗅ぎつけられると面倒だな」
飛鳥「あの時はびっくりしました。いきなり銃を撃ったので」
優「超簡単に解説すると、何も考えてない奴に効果があるわけだが、さすがにアドレナリンがきついみたいだな」
飛鳥「案外、私達の扱いっておざなりですね」
優「確かに、そうかもしれないな。終いには木の中で統合されてしまうし、少しは自力で頑張らないとやられたい放題だぞ」
飛鳥「少なくとも私は優に護ってもらいます」
優「マジか。うぜー」
飛鳥「友達でしょ?それと、さすがに直球過ぎです」
霞「そろそろ夫婦漫才はいいだろ」
飛鳥「夫婦ですって」
優「そんな嬉しそうにこっち見られてもな。もうこのネタもいいだろ」
飛鳥「だからネタはやめてください。そして何気に『も』」
ヘイ「幸い、俺と霞に影響はないみたいだがこれからどうする?」
優「そこは意外だったな。あ、ヘイはともかく」
ヘイ「無理やりはやめろ」
優「とりあえず、置いてきてしまったが葵とシャルの回収だな」
飛鳥「珍しいですね。そんなミスするなんて」
優「ベタに感化でもされたかな」
飛鳥「多面性はいいことですよ。そういう抜けたところもいいと思います」
優「残念ながら、そういうわけにはいかないんだよな」
飛鳥「そこはベタに肯定してください」
優「こっちもいろいろ大変だからな。ま、悪いとも思わないが。さて、雑談もこの辺にしておかないと手遅れになるかもな」
飛鳥「死人とか出ているのでしょうか?」
優「まあ、楽観は出来ないだろうな」
霞「行くぞ」
優「そうするか」
屋上のすぐ下の階が先にいた俺達の学年の廊下になる。屋上は日頃解放されていない(ピッキングは開ける時にも使った)ので盲点なのか屋上からここまで階段だけとはいえ人と会うことはなかった。が、境界を越えた先は地獄絵図だ。ある意味、エグさだけで言えば普段の俺の世界よりひどいかもしれない。残念ながら少しやんちゃな青少年という類ではない。ここだけ見れば、『蛇』やら何やらがこの世界を壊したくなるのも両手を挙げて納得できてしまう。
優「ほとんど性欲だな。一応、そういうお年頃だが。それと、おまえら以外にもまともな奴は結構いるみたいだ。まあ、これじゃただ食い物にされるだけか」
飛鳥「さすがにこれはフォローしようがありませんね」
優「さっさと回収するか。って、あっちから来たな」
向こう側からシャルが歩いて来る。進行を阻む者はいない。その理由はシャルが葵の生首を片手で掴んでいるからだ。さすがに、今の状態でもこれは引くらしい。俺にしてみればシンプルな分、いっそそっちの方が正常だが。まあ、そこは人それぞれということにしておこう。
霞「……」
シャル「ふふ、いい顔してるわよ、霞。よくわからないけど、今の状況には感謝しないとね。おかげで本当の自分を見つけることができた。どの道イレギュラーだったけど、結局こういうことだったのよ。純愛じゃなくてね。いいえ、これこそ本当の純愛よ」
霞「黙れ」
シャル「気持ち悪いからこの生首処分するね。何か私、力持ちになったんだ。ちゃんと見ててね、霞」
その前に俺はシャルの首を電脳印から精製した刀で斬り落とした。
再び屋上。もちろん、絶賛抑止解放中なので扉は施錠してある。あれからそれなりに時間は経ったが、勢いが衰えることはない。ちなみに葵の胴体はないままだが、シャルと葵の死体は目の前に置いてある。
優「意気消沈だな」
霞「……」
霞は二人の死体からは離れ、屋上の縁で死体が目に入らない外の方をぼうと眺めている。
飛鳥「それより、かなり大胆なことをしたと思うのですが」
優「よし、俺は優男じゃなくて自由人を目指そう」
飛鳥「わかりづらいけど、決めるのは俺だ、ってことですね」
ヘイ「まあ、俺は正直感謝してるよ。本当は俺がやればよかったんだが、その勇気はないみたいだ」
優「おまえは冷静だな、ヘイのくせに」
ヘイ「そこは故にだな」
飛鳥「もう受け入れるんですね」
優「やいやい言われたところでだったが、感謝してくれたなら万々歳だ。ヘイでも見所があるとわかったし、俺個人としては満足だな。そういうことで帰るか」
飛鳥「いいんですか?」
優「いいんだよ。これは理不尽ではないからな。個々人で頑張ってもらうとしよう」
その時、揚げ足を取るように外、グラウンドの方から今とは違う異変が起きる。
とりあえず、霞と並んでそちらに目を移す。




