抑止解放 1
いわゆる何の前触れもなくというやつだ。今、エデンの門前には大勢の人が押し寄せている。ちなみに、エデンは塔になっていて入り口はその一つだけだ。壁はミサイルが何発当たっても壊れないくらい頑丈なので
、そこから入られることはないだろう。ただ入り口は出入りできるように造られている。すぐに壊されることはないが、対処は必要だろう。
今はエデンの最上階にいる。今回は一人だけだ。相対するのはエタ、ロロ、ゼウス。
エタ「『拒絶』、『妄執』、『依存』、『転嫁』。この4大抑止力が『蛇』に奪われ、というのは語弊があるか、まあそれはいい、それが『蛇』によって壊されたことが問題だからな」
優「それでこうなったわけか」
エタ「私としてはどうでもいいことだがな。どれ、どれ程どうでもいいか見せてやろう」
今、俺の隣には長方形の大きな窓のようなものがある。と、いっても外の景色を見ることしかできないが。風も通さなかれば、もはや触ることもできない。幽霊のごとくすり抜けてしまう。
ゼウス「もう、私の外身なのに」
ゼウスの隣で例の次元の穴が開く。中から出て来たのは、底辺1m、高さ3m程のコンピュータ。風助、ベラより少し小さいくらいか。まあ、コンピュータとしなくても十分大きいが。
優「ていうか、勝手に動いたな」
ゼウス「私の体だから当然だよ」
優「へー、すごいな。原理については不思議パワーでいいのか?」
ゼウス「そうだね」
コンピュータはさらに動き(地面を滑りながら。といっても、ここに地面があるかどうかは微妙だが)エタの目の前で止まる。
エタ「肉体が最大の抑止力ではあるな」
エタはコンピュータの側面を掌で叩く。
コンピュータはそのまま地面を滑り窓へ、そして外へと落ちていった。
エデンは20m以上の高さはある。高さ20mで十一階層だと窮屈そうだが、そこは空間操作がされているようだ。
あんな巨大な物体が20mから落ちればかなりの衝撃だが、コンピュータは静かに人気の引いた地面に着地した。
そしてしばらくして、様子を窺っていた群集がコンピュータを破壊する為に殺到する。
エタ「ゼウスの暗示であれが本体だと一瞬で理解させた、この群集の第一の目的は打倒ゼウス、後は見て通りだ。では、おまえにも肉体を捨ててもらうとしようか」
優「後9回分はいいのか?」
エタ「ああ、こうなった以上必要もないだろ」
優「まあ、俺はその方がいいけどな」
ロロ「ふっ、台詞がないと油断したね」
そう言いながら、いつの間にかロロが俺の横を通り過ぎる。ついでとばかりに俺の首を落として。
目が覚める。特に倒れることもなく立ったままだ。隣に死体となった俺が、ということもないようだ。
優「案外普通だな」
エタ「電脳粒子化しただけだからな。体のつくりは同じだ。敢えて言うなら、背中の回路が変わったぐらいだが、その程度だ」
背中の回路とは電脳印のことだ。電脳印は背中に描かれている、刺青のように彫っているわけではない。文字通りの意味だ。そしてその役割が回路。電脳粒子をその回路に通していろいろやっているわけだ。仕組みは正直俺にも分からない。とにかくそういうことらしい。一応、回路を流れていることは実感できたりする。凪も天使の持つ次元印と電脳印の二つを持っているが、模様ではなく形が俺のとは違っていたので俺もそんな感じになったということらしい。ちなみに、子供の頃に見たという話なのでエロシチュエーションではない。まあ、割と普通に親子だからな。
優「話は変わるが、結局抑止力ってなんなんだ?」
エタ「人間の基本原理というところだな。食べる、寝るから社会のしくみ、道徳、倫理まで。いわゆる『みんな』の部分だ」
優「『みんな』って結局誰だよってやつか」
エタ「この世界ではゼウスが創った珠っころだったということだ」
優「おまえが創ったのかよ」
ゼウス「いやー、頑張ったわ本当」
優「まさか人間もこの世界も創ったとか言わないよな?」
ゼウス「言いたかったけどね。残念ながら、優しく導いてあげただけだよ」
優「それが気に食わなくて格上が暴れまわっているわけか。大変だな」
ゼウス「私もここまで汚くなるとは思わなかったけどね。何も考えずに、俗に言う幸せな生活でも送ってほしかったんだけど」
優「今に比べれば、その方がマシだろうな」
ゼウス「それを目指すのが私達側。優君は格上の相手頑張ってね」
ロロ「はは、大丈夫かよ」
ロロは腹を抱えて笑っている。言いたいことはわかる。が、それ以前に意志はもう決まっている。
優「じゃ、頑張らせてもらうか」




