「狗」 2
『狗』本拠地前。
ベン「今から柄でもないことを言おうと思う」
ソンファ「冥土の土産に聞いてやろう」
ベン「いや、おまえが俺とセスに拾われなかったらと思ってな」
ソンファ「野垂れ死ぬだけだろ」
ベン「そうか?」
ソンファ「そうだよ。思い上がっているようだが、私は生まれた時からこういう性分だ」
ベン「それは確かに俺達しか無理そうだな」
ソンファ「ま、その辺りは認めてやるよ」
ベン「そうか。それでこれが終わったらどうする?」
ソンファ「そうだな。掃除屋でもやるか」
ベン「はは、割といいかもな」
扉を開ける。ワンフロア。端に数々の武器が雑多に置かれている以外に何もない。まあ、馴染みの光景だ。そこで待ち受けていたのは十歳前後の少女エンデと二十代前半程度の男性ハク。
エンデ「おー、久しぶり姉ちゃん。さっそく婆ちゃんの為に死んでもろうか」
ソンファがお爺ちゃんっ子ならエンデはお婆ちゃんっ子だ。いや、エンデの場合は少しニュアンスが違うか。ちなみに、血の繋がりはない。
ハク「じゃ、俺はジジィだな。とっととくたばってもらおう」
ベン「各個撃破でいいか?」
ソンファ「しくるなよ」
ベン「ああ、まだまだ死ぬ気はない」
ハクの武器はリーと同じ銃大剣だ。昔からの知り合いらしいが、仲がいいというわけではない。そもそも、『狗』で仲が良かったのは優達に殺された五人組ぐらいか。とはいえ、私事だが今では俺とソンファも仲良しだ。(お爺ちゃんっ子なのに今では?理由は下らない。俺が壁を作っていただけだ)
義理の為とはもはや言わない。『狗』には俺とソンファの礎になってもらおう。
ハク「泣けるねぇ。こんな世界でも正義によって悪が裁かれるとは」
ベン「そう思っている時点でおまえの負けだ」
ハク「正義は勝ってやつか?」
ベン「やればわかる。死に土産にはちょうどいいかもな」
ハク「ほう、それは興味深いな」
ハクが銃大剣を構えこちらに踏み込んでくる。
いわゆる特攻。『狗』のような猟兵組織によくある戦い方だ。死ぬつもりはないのだろうが、気に食わない。まあ、今ではだが。過去は経験、と誰かが言っていた気がする。もう老い先短いこの人生、せいぜいこの経験を生かすとしよう。
ハクが斬撃のモーションに入る。
左足で踏み込み、左手に提げていた銃大剣を両手で斬り上げる。
動きとしては野球のバッターに近い。斬撃は篭手でガード(一応近接攻撃用)したが、球のごとく上空に打ち上げられた。
ハクが振り切った所に銃を撃つ。
が、ハクは振り切る途中で次手の為に右手を離している。ハクはその右手で盾爆を投げ銃弾を防ぐ。
盾爆の範囲は自分の全身(電脳印から精製される時、自動的に使用者に合わせられる)前面部分、後方と上空部分はガードできない。
狙いは上空。脳天に銃弾を撃ち込む。今は最高点に達し、落下運動に入ろうとしている。
一撃目から二撃目までの時間は約一秒。ハクの戦闘能力なら防ぐことも可能だっただろう。しかし、発想がなければ行動には移せない。
特攻精神、つまり自己防衛能力に欠ける。この勝負に勝った後のことは考えていないのだろう。ただ本能のままに、いや、ただのやっつけあるいは猿真似か。そこに意志はない。そこまで言い切れるのは俺もそうだったからだ。
ベン「同情はするが、やり過ぎだ」
脳天を撃たれたハクが仰向けに倒れていく。断罪のつもりはない。が、後悔はしていない。
すぐ近くでソンファが戦っている。エンデの武器は青龍刀のような厚い刃の刀。剣術というよりは格闘術に近い。銃は使わずそれ一本でいくのがエンデのスタイルだ。
実力は拮抗。近距離での攻防が続いている。
意志がないにしろ、命を懸けている以上敬意は払うべきだろう。無論、こういう場合の話だが。その辺りを『狗』はやり過ぎたということだ。
俺は二人の横を通りすぎ、セスを探す。
この部屋の出入口は二つ。玄関と裏口だ。裏口の先は『狗』の野外施設になっており、ヘリコプターなどの大型の兵器が置いてある。キューブに格納していないのは、団体での俊敏性を考慮してのことだ。単純にキューブからの精製に若干のタイムラグがあるから、というのもある。
そして、その裏口の扉が開き五十歳前後の女性セスが現われる。
セスが手に持っているのはハンドガンと掌サイズの押し込み式のスイッチ。
セスがスイッチを押す。それに連動してエンデが爆発する。何の比喩もなくそのままの意味だ。おそらく、体の中に爆弾を内臓していたのだろう。そう、されていたのではない。エンデはそれ程までにセスに依存している。それをこうも簡単に切り捨てるとは。まるでどこかで聞いたことのある悪役だ。
ソンファが爆発に巻き込まれ地面を転がる。
まともに喰らってしまい立ち上がることもできないが、なんとか息はあるようだ。
と、いろいろと頭の中で処理をしている間に、その頭を銃弾がぶち抜く。
さらに続いて虫の息のソンファ。
二人が死んだのを確認すると、セスはさっさと踵を返しこの場を後にした。




