回想:桜(前編)
これは私が八歳の頃の話。
まずは出生から話そう。生まれた時から孤児院で親は知らない。風助のおかげと言うべきか、せいと言うべきかここには電脳人以外一切いないはずだが私は普通の人間だ。電脳人から電脳人以外が生まれた前例はない。単純に両親が普通の人間だったのかもしれないが。とにかく、私は普通の人間だ。
無論、それでトラブルがないわけがない。とはいえ、普通のいわゆるそういう系だが。
孤児院の大人は黙止していたが、ちゃんと育てはした。この時代は残留者との関係も良好なので、差別よりは情が勝ったのだろう。
このまま大人しくしていれば、ただの悲劇のヒロインだったが周りと違う部分は見た目だけではなかったようだ。
それが現われたのは五歳の時。先に結果を言うといわゆる二重人格だ。いや、いわゆる押し付けだ。
私は特別なのか入れ替わっている時の記憶はある。もはや意識があると言っていいだろう。自分の行動を客観的に見ている感じだ。
そして、何をしたのかというと人殺しだ。それ以降は、陰口程度は無視したが手を出されれば入れ替わり殺すようになった。もちろん孤児院からは即追い出された。これについては懸命な判断だと私も思う。
その後の生活は悲惨とだけ言っておこう、とにかく、そんなことを続けて3年。ちょうど死体から金目な物でも漁っていた時。ちなみに、弁明する気もないが手を出してきた者達だ。
エレクレイン「あなたも大変ね」
桜「まったくだ」
現われたのは一人の天使。見た目は二十代後半の女性。ちなみに、今は入れ替わっている状態だ。
エレクレイン「意外に社交的なのね。関心、関心」
エレクレインはしゃがみ込み私の頭を優しく撫でる。
桜「これはあれか、よくあるあのオチか?」
エレクレイン「そういうことになるわね」
桜「よし、いいだろう。もう一人にはそれが最善だ」
エレクレイン「そうね、もったいぶらずにもうあげるわ」
エレクレインは懐から掌サイズの珠を取り出す。
エレクレイン「これは『転嫁』って言うの。わかりやすく言うと、世の中は広い、ということかな」
そのままエレクレインに引き取られる。そして『転嫁』の力により、私ともう一人の私は別々に存在することになった。双子、というより分身だ。
エレクレイン「こうなると、どっちも桜というわけにはいかないわね」
桜「それなら私が桜でいいだろ」
エレクレイン「その心は?」
桜「騙されないぞ。そういうのは黙っておくものだ」
エレクレイン「そう言ってこじれるのは定番ね」
桜「散々な人生だったからな。元々そういう役目なら、いっそすべて引き受けようということだ。オリジナルには新しい人生を送ってもらえると嬉しい限りだ」
エレクレイン「心機一転というやつね。でも、それも失敗例よね。リセットしたら同じことの繰り返しだし、今までの経験はちゃんと生かさないと」
桜「なるほど。まだまだ考えが甘いということか」
エレクレイン「まあ、まだ八歳だからね。話を戻すと春なんてどうかしら。桜と春。なかなかいいコンビと思うのだけど」
桜「なんかダジャレっぽいな」
エレクレイン「そこがまたいいのよ。これで経験も生かせるでしょ?」
春「そうですね。都合良くすべてを転嫁するわけにはいきません」
桜「真面目か」
自分に突っ込まれた。ここで安心しているのも立派な転嫁か。私から解放されたからといって、今までさせていたことがなかったことにはならない。
エレクレイン「とか思っているみたいよ」
桜「哀しい話だ。勝手な妄執で私の行動が否定されてしまうとは」
春「?どういうこと?」
エレクレイン「案外わかりやすいってこと。もう一つの方は命令された覚えはないってこと。それとも、二重人格だからもう一人の存在は認められない?」
春「それはないです」
エレクレイン「そう、なら目は逸らさないことね。私が先に見た現場には二つの存在があった。そうでしょ?」
春「……はい」
桜「そうだぞ。勝手に消さないでくれ。一生懸命殺したのに」
エレクレイン「それもどうかと思うけどね。これからは自重してほしいわ」
桜「ゴミがなくなれば、もはや殺さなくて済むかもしれないな。一説によると、不可能らしいけど」
エレクレイン「そこで私の出番というわけね。反論しておくと、物理的には可能よ。正直、そんな大層なことじゃないしね」
桜「その心は?」
エレクレイン「ただの気持ちの持ちようよ」




