優 解放者への道
隔壁の向こうには淡い緑色に発光した電脳の海が広がっていた。
文字通り線引きされているかの如く、隔壁があった場所よりこっち側には流れて来ない。横一直線に静止している。そもそもこの海に流れはない。
手で掬ってみる。どうやら液体ではなく、電脳粒子なようだ。
海へ落としてみる。従来はそのまま天上に昇り気化していくが、逆に海へと落ちていった。
エタとロロはすでにこの場を去っており、その際この海を渡って行けば街がある、と言い置いたわけだが。
優「これ、沈んだら底なしか?」
アルル「気合だ」
優「気合で死にたくないけどな」
アルル「何でもできる」
優「他に手もないしな。死なない程度に試すか」
マルタ「正直、霊子体なら普通に渡れるけどここは風情を重んじようじゃないか」
と、小船に乗った俺と同じぐらい二十五歳前後の女性が言った。
マルタ「いやー、私のコート似合ってるね」
ちなみに、実はあれ以来ずっと着ていたりする。
優「へー、製作者か」
マルタ「今回の解説役マルタです。よろしく」
優「おう、毎回いるんだな」
マルタ「それ程君に期待しているということ」
優「いっそ集まった方がやりやすそうだけどな」
マルタ「みんなシャイだからね」
優「まあ、癖はあるな」
試しに海へ足を入れてみると、足は海中に入ることなく地面のように海面を捉えている。
優「電脳体同士的なことか?」
マルタ「まあ、そんなところ」
普通に歩けるようだが、折角なので言われた通り小舟に乗り込む。
心のゆとりは大切だ。
すると、小舟は一人でに動き始め海の向こうを目指して行く。
マルタ「意は決したみたいね」
優「観てたのか?」
マルタ「お家芸みたいなものだからね」
アルル「ふぁんたすてぃっく」
優「無理矢理台詞挟むと質が落ちるぞ」
アルル「今までの話、ほとんど関係ないからつい」
優「そうなのかよ」
アルル「私は何でも受け入れるのさ。故に、変えることもできないけどね。そして、変わらなければ滅びてしまう。永遠はない、ってやつだね。頼むぜ、相棒」
優「おう、任せろ」
と、そんなことを言っていると
目の前の海面から黒い球体が這い上がってきた。ちなみに、この海ではその際の衝撃で波立つことはないようだ。
大きさは直径四、五メートル。とりあえず、人間よりでかい。
マルタ「天敵システム、こっちではクロ助、ここでは黒。意味は何の捻りもなくそのまま」
優「俗に言うしゃべらない敵か」
アルル「後人間じゃない、ね」
優「確かに、そこが一番重要だな。最近は時々しゃべったりもするしな」
アルル「ロクなこと言わないけどね、人間最高」
優「まあ、天敵だからな」
マルタ「コンセプトは平和ボケ防止、文明の向上」
優「戦争でどうたらこうたらってやつか」
アルル「うわー、微妙そう文明」
マルタ「実際向こう側とあまり変わらなかったから、確かに微妙だったね。平和ボケ、つまり変化をつけるぐらいには期待していたけど、それもマンネリ化してしまえば成果はない。やっぱり環境よりも自我が重要ね。ちなみに、その天敵システム自体今では用を成していないけど。その原因というか、要因がこの先にいるわ」
優「こっちには攻撃してこないのか?」
マルタ「こっち側の街は大きいのが一つだけ。そこに向かって攻撃する。そういう物よ」
と、いうことなので余計なことはせず付いて行くと
十八歳前後の男が海上で待ち構えていた。
手には一本の機械でできた剣、海上に立てているということは霊子体だろう。
エド『先生、今日もさくっといきましょうか』
アシェル「そうだね。一体だけとはいえ油断は禁物だけど」
あの剣は王剣の類ではなく、懐かしの完全AIらしい。
アルル「そういえば、二回目の時台詞なかったね」
優「ユイ、か。桜が下手にカンフーにハマったからな。いや、それでも見事な背中語りだったよ。しゃべらないのが究極系だからな。今もこうして、俺の心に刻まれている」
マルタ「なんか無理矢理っぽくない?」
優「そうでもないさ」
マルタ「そう。深いね、精神は」
戦闘はあっけなく終わった。クロ助から伸びた触手をかい潜り、剣で一刀両断。
優「漫画みたいに綺麗に決まったな」
アルタ「二百年のキャリアは伊達じゃない、ということね」
優「それは伊達じゃなさそうだな。ていうか、そうなるとおまえらの方は何歳になるんだ?」
マルタ「いろいろ面倒だから秘密で」
優「そうか、そいうことならこれ以上深入りしないでおこう」
アシェル「ええと、とりあえずお久しぶりです」
エド『おお、大先生じゃないっすか』
マルタ「かなりお待たせしたけど、この人が解放者。いや、人達かな」
アルル「ここは私にもローブ造ってもらわないと締まりませんぜ」
マルタ「そうね、考えておく」
エド『先生的にはどうなんっすか?この二百年に終止符打つってことでしょ?』
アシェル「僕がいなくなった時のことを考えるとね」
エド『そこっすか。先生はお優しい』
アシェル「どちらかというと役割、仕事みたいなものだけどね」
エド『それでも立派ですよ。命のやり取りを抜いても、俺からしてみれば拷問みたいなものっす』
アシェル「付き合わせて悪いね」
エド『俺はいいんっすよ。先生と一緒なら』
マルタ「仲良くしているようで何よりね。ここでネタばらししておくと、エドは私が造って王剣の試作品だったりする」
優「マジでか、類じゃないって言ったばかりなのに」
マルタ「世界は広いようで狭い。どちらがいいかは人それぞれね。広過ぎても把握できなくてつまらないし。じゃ、行きましょうか」




