瞳
「で?デートはどうなった訳」
「ただ一緒に電車に乗っただけでしょ、そんなんじゃない」
根掘り葉掘りするのは、勝手に返信をした友人。
「えー、勿体ぶんないでよー」
放っといてくれ、これはアタシの問題だ。
「だってさぁ、アンタの色恋沙汰なんて聞いたことないし?」
ニタニタと笑う彼女は胡散臭い。
「でさ、どうよ?エセムードメーカーは」
甲崎くんが相手と言うのはメールの登録名で知ったのだろう。
情報があったといっても彼が大きいグループの中心ということは私も知ってはいたが、名前は知らなかった。
彼女は割と色々と情報収集しているのかもしれない。
「エセって、辛辣な……でも、まぁイメージとしては違うよね」
ベンチの背に全体重を預けて空を見上げる。
「なんというか、」
目の端に映り込んだ緑に笑みが浮かぶ。
「木みたいな人だね」
「……また、微妙な表現を」
穏やかで、長い時を生きていて、周りの状況によって姿を変えることができる。
「――アンタの観察眼には恐れ入るわね」
わりと芯が強いところもあるし、と呟く彼女にどこか違和感を感じたのだが。
「やばっ!そういや、アンタに頼みたいことがあるんだった」
「志保、何でそんな計画性がない訳?」
もうちょっと、しっかりしていたと思うんだけど。
「だから、悪かったって」
課題提出は明日なのに、一文字も埋まって無いってどういうことよ。
お互い名前を呼ぶ時は茶化す時か、お説教タイムだ。
「ね、時間もないし」
必死で宥めようとする言葉なのか、本当に時間が足りないせいか並べることに仕方ないと論文を開始する。
「悪かったわね」
心底申し訳なさそうな彼女に、何を今更、と笑う。
「いいわよ、もう」
結局、真夜中までかかったソレを丁寧に鞄に入れる彼女。
流石にこんな時間に年頃の女の子を返す訳にはいかないと、両親は即決でお泊りを決行した。
「もう一人娘ができたみたいだって二人とも喜んでたし」
いつもより気合が入った朝食を食べて、玄関を潜る。
「お邪魔しました」
中にいる両親に向かって挨拶をする志保を待っていると、隣の玄関の扉も開いたのが見えた。
「兎…っと、兎の友達?」
後ろから出て来た女を兎は軽く紹介した。
兎の斜め後にいるから兎には見えていないんだが、見られている気がする。
気の強そうな猫目でじろじろと見られていると落ち着かない。
何か気に障る事でもしたか?とでも思うくらいにキツイ視線だ。
「隣に住んでいる、羽柴 虎です。どうも」
今まででこの日の通学時間程、居たたまれない日は無かった。
「あのさ、聞いてもいい?」
虎がそそくさと電車を降りて行ったドアを見ていたアタシに彼女は遠慮がちに聞く。
「何?」
「虎くんとアンタ、付き合ってんの?」
「付き合ってなんかないわよ」
思わず、間髪いれずに返す。
「ふぅん?見てた感じアンタに気があるみたいだったからさ」
彼女を敵に回すと恐ろしい気がする。まるで、エスパーだ。
「そ、そうかな?何で?」
「あの子の自己紹介の仕方よ」
何かおかしい所があったようには思わないのだが。
剣呑な目にぎょっとする。
―――虎、アンタ何してくれたのよ