バランス2
僕は同学年より、ひとつ年上。
つまり、一浪した後に現在大学に通っている。
元来、気が弱い自分が周りに溶け込むには空気を読むことが不可欠だ。
入学試験の時なんかは最悪だった。
自分ひとり私服で、周りの視線が、声が突き刺さる感覚は二度と味わいたくない。
ひとりあぶれないためなら、人格までも作ってしまおうというのが僕の考えだ。
来る者は拒まない、それだけでなく自分から引き入れる。
去る者はその前に手を打つ。
広く、広くと手を伸ばす関係は薄くなっていく。
あの日もそうだった。
「今日も元気そうには見えないわね」
僕たちの隣を通り過ぎた彼女の眼は僕を見ていた。
確かに二重生活を送り続けて数カ月。
胃の痛みに耐えることが多くなった。
周りの誰も僕に気が付かなかったにもかかわらず、彼女は気付いた。
それからだ、何もかも違う彼女を眼で追うようになったのは。
話しかけるきっかけは、良くも悪くも年下の少年。
その前日の帰り、自分が降りる駅で擦れ違った少年は、真っ直ぐに彼女の元へと滑りこむ。
嬉しそうな顔を前面に押し出していたのにもかかわらず、ドアをくぐると不機嫌そうな顔をする。
親しげに話し始める中、苛立ちが募る。
そこで気付いた。
彼と自分は同じだ、と。
彼と彼女を引き裂きたい、と。
彼女の嬉しそうな横顔が遠退いて行くのは当然なのに、まるで、その少年と自分との差が開いていくようで。
数日前、伝えた。
「僕を見て欲しい」
表面だけ見るアイツらよりも、キミと一緒に居て、笑いたい。
「おはよう」
会いたくなかった。
いつもなら、私が話しかけるうと言うのに。
「やっと、捕まえた」
強張る表情にこれでいいのだと笑う。
もう、離されはしない。
彼女が傷付こうとも、誰かの手を取られるくらいなら。
「逃げようとしても、どこまでも追いかけるよ?」
開いた扉から人が波のように押し寄せる。
流されながらも目は逸らさせない。
兎の背中が反対の扉に辿り付く。
押しつぶされないように、俺が壁になってるのなんか、気付いてないんだろう。
お前の中の俺はまだ、守られているだけの子供なのか……?
前回は兎の中の二人、今回は肇と虎&虎と兎のバランス。
肇と虎が似ているようで反対なこと、分かって貰えたらいいなぁ。
次回も懲りずによろしくお願いします。