迷惑な感情
「で、龍兄にどんな話を持ちかけられたか聞いても?」
何となく想像ついてはいますけど、と笑う彼女は少し困っているように見える。
本人の知らない所での計画だけでなく、少し前まで勝手に嫉妬していた罪悪感も残っていて。
所々どもりながらも全容を話した後、思わず謝ってしまった。
謝られたって、気分は悪い筈。
軽くなるのは彼女ではなく、私の罪悪感だ。
それなのに、結婚を祝ってくれた時の笑顔、突然呼び出したにもかかわらず、式の準備を手伝ってくれる時の真剣な顔が浮かんで。
嫌われたくない、と思ってしまった。
「何で、謝っちゃうんですか」
頭上から聞こえる声に顔を上げると、苦しそうに喉の奥で笑う兎ちゃんがいた。
「むしろ、私が謝らなくちゃ」
苦しそうな彼女の口から出たのは、虎君の初めて口にした言葉、学校行事は漏れなく、二人の電車デビューなどのエピソード。
龍さんから聞いたことのある話もあれば、それ以外の話もあった。
「虎と私はセットなんです、昔から」
そう言って、丁寧にポットから注ぎたした紅茶を含み、目線を下げた。
「少なくとも、私に気を使うこと無いんですよ」
動かない視線を辿ると、カップの中身―――|色が出すぎて≪茶色になって≫いる。
「それに甘んじて、いるんですから」
通りがかったウェイターに新しい|紅茶≪もの≫を二つ頼もうとする私を制して、また、困ったように笑う。
「居心地が良すぎて困ってしまいますね」
私はホットミルクを下さい、と言うと優しくカップを撫でた。
さっきまで昔話に花を咲かせていた時と違い、何となく口が重たくなる空気の中、飲み物が届く。
ウェイターに軽く会釈をしてそれぞれの飲み物を取った時だった。
「私、こうするのが好きなんですよ」
頼んだホットミルクの中に濃い紅茶を注ぎ込む。
「これも昔から、なんですけどね」
スプーンでひと混ぜして、口へ運ぶまでの動作を自然と追ってしまう。
口元が隠れ、目線が合う。
「最初の話ですけど」
また、少し困ったような顔をする。
「嫉妬くらいで怒ったりしませんよ」
何を今更、と彼女は溜息を吐いた。
「私、年齢=幼馴染歴なんですよ?慣れっこです、そんなの」
慣れっこ、と聞いて思い当たる。
「陽子さんにも心当たりがあるみたいですね」
龍さんは異性にもてる。
飾らないから同性に妬まれることも無いが。
「知らない女の子が私に突っかかるなんてこと、日常茶飯事でした。今でこそ無いですけどね」
皆、若かったけど、良い年した大人だから表立ったものではなかった。
が、苦労した覚えはある。
「あの時はなんて迷惑な奴らだ、って思ってました」
顔を顰めておどけて見せる彼女に、気遣いを感じて苦笑いをする。
これは、本当にどちらが年上か分からない。
「けど、それって誰にでもある感情でしょう?」
ふっと、一瞬険しい顔になって、呟いたかと思うと片手で目を覆った。
「最近、私にも分かって来たんです」
口元に覆いはなく、歪ませているのが分かった。
「前々からみっともないと思ってたんですけど、自分の感情でもみっともないものですね」
少し疲れた様な声で、嗤った。
「気持ちだけ、貰っておくとお伝えください」
これ以上、醜態をさらしたくないし―――
「やっぱり、幸せになりたいんですよ。私も」