表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/21

迷惑な感情



「で、龍兄にどんな話を持ちかけられたか聞いても?」

何となく想像ついてはいますけど、と笑う彼女は少し困っているように見える。

本人の知らない所での計画だけでなく、少し前まで勝手に嫉妬していた罪悪感も残っていて。

所々どもりながらも全容を話した後、思わず謝ってしまった。

謝られたって、気分は悪い筈。

軽くなるのは彼女ではなく、私の罪悪感だ。

それなのに、結婚を祝ってくれた時の笑顔、突然呼び出したにもかかわらず、式の準備を手伝ってくれる時の真剣な顔が浮かんで。

嫌われたくない、と思ってしまった。


「何で、謝っちゃうんですか」


頭上から聞こえる声に顔を上げると、苦しそうに喉の奥で笑う兎ちゃんがいた。

「むしろ、私が謝らなくちゃ」

苦しそうな彼女の口から出たのは、虎君の初めて口にした言葉、学校行事は漏れなく、二人の電車デビューなどのエピソード。

龍さんから聞いたことのある話もあれば、それ以外の話もあった。

「虎と私はセットなんです、昔から」

そう言って、丁寧にポットから注ぎたした紅茶を含み、目線を下げた。

「少なくとも、私に気を使うこと無いんですよ」

動かない視線を辿ると、カップの中身―――|色が出すぎて≪茶色になって≫いる。

「それに甘んじて、いるんですから」

通りがかったウェイターに新しい|紅茶≪もの≫を二つ頼もうとする私を制して、また、困ったように笑う。

「居心地が良すぎて困ってしまいますね」

私はホットミルクを下さい、と言うと優しくカップを撫でた。


さっきまで昔話に花を咲かせていた時と違い、何となく口が重たくなる空気の中、飲み物が届く。

ウェイターに軽く会釈をしてそれぞれの飲み物を取った時だった。

「私、こうするのが好きなんですよ」

頼んだホットミルクの中に濃い紅茶を注ぎ込む。

「これも昔から、なんですけどね」

スプーンでひと混ぜして、口へ運ぶまでの動作を自然と追ってしまう。

口元が隠れ、目線が合う。


「最初の話ですけど」


また、少し困ったような顔をする。

「嫉妬くらいで怒ったりしませんよ」

何を今更、と彼女は溜息を吐いた。

「私、年齢=幼馴染歴なんですよ?慣れっこです、そんなの」

慣れっこ、と聞いて思い当たる。

「陽子さんにも心当たりがあるみたいですね」

龍さんは異性にもてる。

飾らないから同性に妬まれることも無いが。

「知らない女の子が私に突っかかるなんてこと、日常茶飯事でした。今でこそ無いですけどね」

皆、若かったけど、良い年した大人だから表立ったものではなかった。

が、苦労した覚えはある。

「あの時はなんて迷惑な奴らだ、って思ってました」

顔を顰めておどけて見せる彼女に、気遣いを感じて苦笑いをする。

これは、本当にどちらが年上か分からない。


「けど、それって誰にでもある感情でしょう?」


ふっと、一瞬険しい顔になって、呟いたかと思うと片手で目を覆った。

「最近、私にも分かって来たんです」

口元に覆いはなく、歪ませているのが分かった。

「前々からみっともないと思ってたんですけど、自分の感情でもみっともないものですね」

少し疲れた様な声で、嗤った。

「気持ちだけ、貰っておくとお伝えください」

これ以上、醜態をさらしたくないし―――

「やっぱり、幸せになりたいんですよ。私も」




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ