側に
「虎も、大きくなったもんね」
何をするにも付いてきて、そんな虎が可愛いばっかりに世話を焼きまくっていた私。
今じゃ、世話を焼くことなど無いに等しい。
「その言葉おばさん臭い」
少し、頬に力を入れる。
雑炊から目を離さずに居てくれたのは幸いなことだ、細かな所に目の届く彼でも分かるまい。
「そうだね」
私は虎より先を走る。
ずっと可愛い弟のままでいてくれたら、ずっと世話焼きなお姉さんでいられたら。
私は彼より早くおばさんになる。
少しばかり寂しい気がしていた。
「お揃いだな」
少し充血した、それでも澄んだ瞳がこちらへと動く。
「おじん臭いってよく言われる」
へらっと笑う、その顔に釣られて自分の顔も少し緩んだ。
外では大人びていると評価される彼が、どれくらい頑張ったのか、私が一番知っているようで、一番知らないのだろう。
隠れて無茶をする、それが虎だから。
「お揃いだね」
繰り返す言葉が心に溶けると少し心が落ち着いたように思う。
―――それなら、そんな無理をしている俺も俺だって見てくれよ
今も、そう思っている?
私が気にするであろうことを気にして、溝を埋めようなんて努力しようなんて気持ちがある?
薬を取ってくるという彼女の後姿を見送り、少しばかり冷めた雑炊を啜る。
それにしても、と溜息を吐く。
仮にも弟分で、本調子で無いにしてもだ。
家族のいない家にのこのこと上がってくる兎に不安を覚える。
状況によっては他の奴にも同様に接するのではないか、と。
正直、体がだるいし、説教もましてや何かしようとも思えないのだが。
それでも追い出さなかったのは、追い出す元気も無かったのもあるが、それ以上に側に居て欲しいと思ったからだ。
「これって、歯牙にもかけられてないってことだよな」
例えそうだとしても、側に居て欲しい。
兎を寄越した母親に何かを感じなくもないが、考えるのも面倒くさい。
空になった土鍋をデスクに置き、横になる。
瞼が重くなるのに時間はかからなかった。
「寝てるし」
静かにドアを閉め、デスクに向いたばかりの林檎を置く。
つい、眼の端にとらえた紅がいけなかった。
薬を嫌がる虎に林檎で誤魔化していた、あの頃を思い出してしまったばっかりに時間がかかってしまったのだ。
「最近思い出してばかりだな」
取り残される前のことをよく思い出してみる。
髪を掻き分けて額にタオルを乗せる所で手を止めた。
「あんなに近くにいたのに」
どうして遠退いてしまったのか。
チャンスはいくらでもあったのに、どうして手を伸ばせなかったのか。
考えても仕方がないのだが、ちらつく少女が私の眼を曇らせてしまう。
冗談だと笑っていた口約束に縋る程には揺れている。
目を閉じて、開いてを繰り返し、ゆっくりとタオルを乗せた。
今日だけは私に譲ってね。
此処に居るべきは私じゃないけれど。
間が随分と空いてしまいましたが……。