欲しい言葉
「やば」
メールと電話の着信履歴は全て今日の21時から連なっている。
母親と父親が3件ずつ。
現在の時間は10時45分。
兎から聞いて、帰りが遅いのは聞いていたのだがまさかこんな時間になると言うのは予想外だった。
「これはこってり絞られるな」
理由を話せないだけに。
まぁ、いいかと家路に向かって足を進める。
帰りつけば11時、メールでも送っとくかと画面を引き出す。
どうやって怒りを減らせるか計算しながら言葉を探す。
「あれ、羽柴君?」
通り過ぎたばかりの横道から聞こえた声に振り返る。
どうやら知り合いらしい。
「佐々木?」
同じクラスの女子だ。
肩まで伸ばされた黒髪、小柄さが誰かさんと被る。
学生服のままな所から見て塾か何かだろう。
「私は塾の帰りなの。羽柴君は?」
「まぁ、用事があったから」
聞かれて、はいそうですかと答えるような話ではない。
「そっか」
何とも切り上げづらい返事で、頬を掻く。
気を付けて帰れよ、と言おうとして口を閉じる。
こんな物騒な時代に一人?
「一人で帰んの?」
しまった、と思った時には口に出していた。
「えと、今日はたまたまで」
「ごめんね、送って貰っちゃって……」
「このくらいなら、別に」
来た道を逆戻りしながら内心と逆の表情を作る。
「実は、心細くって、すごく嬉しかった」
ここらは駅から外れて街灯も少ないから、と言っていたことを思い出す。
あのまま帰しても、何か俺が人でなしだから、と無理やり納得させる。
「兎?」
駅前に座り込んだ見覚えのある姿。
顔を上げたかと思えば、疲れた表情で。
「やっと、戻ってきた」と聞こえた。
いつから、待ってたんだろうか。
携帯の時計は0時5分前。
「帰ろうか、虎」
立ち上がる様子の無い兎に手を差し出せば、まるでその手が見えないかのように立ち上がる。
隣を歩いているのに、会話は無い。
視線に気が付いている筈なのに一度もこちらを向こうとしない。
「怒って「ないよ」」
気まずい空気の中、開いた口は閉じざるを得ない。
「電話も取れない用事があったんでしょう?」
悪いことしてないならいいわ、と視線は変えずに淡々と続けた。
「いいんじゃない?虎も、もう子供じゃないでしょう?」
欲しかった言葉の筈なのに、その響きに夜風の寒さに背が震えた。