恋路
見覚えのある顔が話しかけてきて、待ち伏せされたのだと気が付いた。
駅から移動する途中はちょっと睨んだだけで待ち伏せなどする心の狭いガキだと笑っていたのに。
「アイツを困らせるのはやめてくれないか」
ときた。
兎が私の様子を気にしていたのは分かっていた。
この子にたどり着いたのも知っていた。
まさか、その本人に会うとは思っていなかったけど。
「それ、兎に言われた訳?」
答えなんて分かってるけど。
「いや。俺の自己満足」
あの子がこんなこと知ったら頭抱えるでしょうね。
「それで、今までずっと待ってたわけ?」
大した忍耐力だわね。
「まぁな」
なんか、横柄な態度は真逆なのに。
そっくりなのは何でだろう。
夏とはいえ、9時も過ぎれば半袖じゃ冷えるでしょうに。
私が馬鹿みたいじゃない。
つらつら考えながらも、
「別に、兎を困らすつもりはなかったんだけど」
ただ、アイツの壁が邪魔だと思っただけ。
「だろうな」
「理由、聞かないの?」
「別に」
そう言って、帰って行った。
「あー、何か負けた気分」
電車に乗る前の、一言。
『明日は普通にしてやって』
これじゃあ、どっちが年上か、分かんないね。
「人の恋路を邪魔する奴は犬に食われてって奴なのかなぁ」
喧嘩売った相手は虎、だったけど。
トボトボと暗い帰り道を歩く。
多少の差はあれど、同じような環境の中で同族嫌悪。
なのに、片やもっと近づこうと手を伸ばして。片や今以上に離れることが怖くて、諦めて。
羨ましい気持ちが混じってるんだろうな、と思う。
「仕方ないじゃない」
あの馬鹿は一途に想っているんだもの。
「何が仕方ないんだ?」
掛けられた声に顔を上げる。
「……肇、どっか行くの?」
ジャージってことはコンビニでも行くんだろう。
「そのサンダルは無いと思うけど」
はっきり言ってダサい。
そんなところ見たら、大概の女は引くんだよ?
「誰のせいだと思ってんだ、馬鹿」
額を小突かれて、イラッとしたアタシは文句の一つでもと口を開く。
「いつもならとっくに帰ってる筈の時刻なのに帰って来てないお前を探しに来たんだよ」
「アタシにもアタシの都合ってものがあるのよ」
ちらりと横目に見るとクシャクシャと頭を掻いていた。
きっといつも通り、アンタは言うのよ。
「年下の癖に偉そうに言うな。最近は物騒なんだからな」
アンタは知らないでしょう?
兄妹のように育っただけで、アタシは肇の妹じゃないの。
妹分として見られていると分かっていても、迎えに来てくれる、心配してくれてるだけで胸が高鳴るアタシの気持ちを―――。
志保は肇と幼馴染でした。
所々匂わせてはいたんですけど。お気づきの方もいらしたかもしれませんね……。