帰途
今日の志保はとても扱いづらい。
無駄に苛々して、刺々しくて、なのに『何故?』という言葉をはぐらかそうとする。
「虎が気に障るようなことしたんなら謝らせるから、理由を教えてくれない?」
側にいるアタシの気持ちにもなってくれ。
私という選択肢が一番に上がったが、ソレは違うと言い、具合が悪いのかと聞けばソレも違う。
選択肢を絞っていきながら、どうやら虎関連であるらしいと結論付けた。
いつものベンチでお揃いの弁当を広げてどれほどの時間が経っただろうか。
「アタシに言い辛いなら電話貸すよ?」
それでも縦には頷かない。
「まぁ、いいわ。昼食べてもらわないとその弁当箱持って帰れないから食べちゃってよね」
ウチ特有の甘い卵焼きを口へ運んだ。
結局、原因は分からぬまま大学内で別れを告げる。
「おばさんにお弁当の御礼言っといてくれる?」
「分かった、伝えとく」
志保はもう一つ多く科目を取っている為に登下校は別だ。
どうしてこう、悩みは重なるのだろう、と溜息をつく。
ひとつずつ片付けなくてはと思う気持ちに反して次々押し寄せる問題を消化する時間がない。
上の空のアタシが危うく乗り過ごすことになりかけたところに、声がかかる。
「何やってんだ、兎」
「あれ、龍兄?久しぶりだね」
腕を引いて、下車させてくれたのは虎の実兄であり、私の兄のような存在だった。
「確かに久しぶりだな」
確か、隣の県の会社に就職してたんじゃ?
「ちょっと、実家に挨拶しに、な」
龍兄の隣には女の人が立っている。
「三原 陽子って言います」
「陽子さん、ホントに龍兄でいいの?」
「こら、何を言うか!」
ぐしゃぐしゃと頭を撫でられる。
言葉事態は丁寧ではないが、いつだって優しい龍兄。
「聞いてた通りだわ」
「だろう?」
くすくす笑う陽子さんの顔を見上げると、
「弟の虎君とセットで良く話を聞いているのよ」
柔らかく笑う彼女は名前のように陽だまりを感じさせる。
「失礼なこと言ってませんでした?」
主に幼少期の笑い話を聞かせていたらしくそっぽを向いて知らんふりする龍兄に、それを優しく笑う陽子さん。
とても幸せそうで、ぴったりのカップルだと思う。
この人なら、きっと幸せにしてくれるだろう。
大切な人だから、絶対幸せになってね、なんて思いながら二人を見ていた。
あっという間に家に帰りついて、二人に別れを告げる。
「結婚式には絶対呼んでよね?」
一瞬、龍兄の動きが止まり、陽子さんの腰を引き寄せて中に入っていった。
振り返りもせずに入っていく時、確かに聞こえた、
『楽しみにしとけよ』
の言葉を心に刻みつけ、幸福感を感じながら、我が家へ入っていった。
前回虎の名字が出ました。が、今回は兎の名字が出ました。彼女は片瀬 兎です。