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新たな始まり

これは 白兎 成 の作品『兎と虎』afterstoryとなっております。

よろしければ、そちらからお読みください。

兎の頭の中が分かりやすくなると思います。


 規則正しいリズムが階段を上ってくる。

 その音に着替える手を止めた。

 何故自分の部屋に向かう足音と分かるかって?

 私の部屋がある二階には物置部屋(ごみ溜め場とも言う)と自分の部屋しかない。

 そして、ウチにはこんなに礼儀正しい足音の持ち主はいない。

 心当たりはただ一人。

 私に用があって来る、ということだ。

 今日もまた、ノックなしで扉は開かれた。


 「虎、」

 「…兎」


 小学校高学年ぐらいから、言動がグッと大人びた弟分の虎。

 何がそうかえたのかは知らないが。

 「ノックしてから開けなさいよ」

 ついつい、言ってしまう。

 「姉気面するな」

 こう言うことは分かってはいるのだが。

 「それとこれとは別でしょ。例え姉弟でもこういうのはいがみ合いになるし、虎が言う姉じゃないって気持ちがあるなら余計そうするべきだよ」

 寂しいな、と感じるのはいけないことだろうか。

 ずっと一緒に居た弟が急に知らない男の子になってしまったかのようで。

 「暇そうに見えて、大学生も結構大変なんだよ」

 疲れて帰って来る日もあるのだ。

 それがまた、油を注ぐことになる。

 「高校生、大学生ってそんなに年上がえらいのかよ」

 事あるごとに出してくる年の差。

 どうも、『年上』と言うのがネックだというのは分かるのだが。

 そのせいで無理をしているのは長い付き合いならではの感で見えている。

 大事な子が無理する姿を見たいと言うようなひねくれ方はしているつもりもないし、全くもって見たくない。

 できるなら、元気に笑っている姿が見たいというのが普通だろう。

 虎が『ずっと一緒に居る』と言っていたあの時の真っ直ぐな眼、彼の素はあれだった。


 「…年上がえらいとか、姉気面するなとか言うけどさ。そういう、年の差を気にして差を広げてるのは虎だって分かってる?」


 あの時からどこで変わってしまったんだろうか。

 今の彼は何かに焦っている、それをなんとかしようと無理な飾りを付けているようにしか思えない。

 素直な気持ちをそのまま言葉にして、後悔した。

 ギラギラと鋭く光る眼、悔しい気持ちを露わにした歪んだ口、それらは手負いの獣とよく似ている。

 「虎は、虎なんだよ」

 言いたいのは、無理をするな、ということだ。

 傷付けたいんじゃない。


 「――ら――く、よ」

 食いしばるその口から、ぽつり、何かが聞こえた。

 「虎?何て言ったの?」

 苦しんでいるそんな姿を見て、昔のように抱きしめて、慰めたいと思ったがそれこそ年下扱いだと拒絶されるに違いない。

 寸でのところで声をかけるだけに留める。


 「それなら、…そんな無理をしてる俺も俺だって見てくれよ!!」

 悲痛な叫びに二の句が継げず、口を開いたり閉じたりを繰り返す。

 次は眼を見開くことになった。

 小さな頃、ずっと一緒に居る、と抱き着いてきたあの頃の状態に時間だけ巻き戻る。

 「もう、小さな頃の俺じゃないんだ」

 とうに背は越されていて、体はすっぽりと包まれた状態。

 それ以上に頭に響く心音が全身の緊張を伝えている。

 苦しそうなかすれた声もはっきり聞こえていた。

 自然と頭を撫でるための手が伸びる…けれど、長さ的に頬に添えるまでが限界だ。

 初めは頬に添えられた手を包むように触れていた虎の手がキツイくらいにアタシの手を締めつける。


 「俺はお前を姉だと思えない」


 ……お前のことが好きなんだ、一人の男として




 

rabbit & tiger、いかがでしたか?

近日中に次話を上げたいと思いますので覗きに来て下さると嬉しいです。

お読みになって頂きありがとうございました。

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