女神力、目が魅力
スポーツ新聞を読んでとあるマイナースポーツで大勝したチームの話題を不思議な心境で思い返していた。20対0という衝撃的な数字もさることながら、対戦したチームにはまるでチャンスらしいものが訪れなかったという『内容』の方も中々に絶望を感じさせた。いっそ清々しいというか、諦めがつくというか兎にも角にも記憶には残る試合となった。季節を跨いで続く暑さに辟易しながら、今年何本目になるか分からないスポドリをグビグビやって、ゴールのない物思いにしばし耽る。
「そういう事もあるんだなぁ…」
PCを前にして椅子にもたれ掛かりながら出てきた言葉。良くも悪くも変わり映えのしない日常で、珍しく心の中に「何か」が芽生えたのかチームについての話題を漁り始める。チームの主力選手である「風早」氏が試合後に一言コメントを出しており、
『女神さまも味方してくれませんでしたね…』
というやや特徴のある表現をしている。一年程前の記事で、劣勢から見事に逆転勝利した試合後に『女神さまが微笑んでくれましたね!』と述べていたのとは非常に対照的でどこか暗示めいている。勝利の女神といえばギリシャ神話の「ニケ」が有名ではあるけれど、神社みたいにお参りすれば願掛けになるような女神さまではなさそう。
<女神か…>
そういえばずっと昔のことになるが、実の妹が学生時代に『勝利の女神』と呼ばれてよく関係のない部活の応援に駆り出されていたという逸話がある。ただの偶然が重なって応援に行った際の勝率が高くなっているというだけの『誤差』みたいなものだとは考えていたが、何が何でも勝ち残りたいチームからすればいろいろ縁起が良かったのだろうと思う。しっかり家庭を持った今の彼女にもその『女神』的な力は残っているのだろうか?みたいなことを考えてしまった。
そんなことを考えていたからなのだろうか、折よく妹が5歳になる姪を連れて遊びにくる機会が訪れた。県外から高速道路でやってくる予定だったのが、当日ちょっとした渋滞があって「少し遅れる」と連絡が入りほんの少しそわそわしはじめたものの、実際はほとんど予定した通りの時刻に到着。それなりに身だしなみを整えつつ玄関で出迎えると、
「おじちゃん!来たよ!」
と満面の笑みを浮かべた姪が駆け込んできた。天候にも恵まれたせいか、それがこの上なく眩い光景に思え姪とハイタッチした自分はニヤケが止まらない。もうすっかり母親の風格を備えた妹がゆったり歩いてきて、
「どうも、ご無沙汰しております」
と丁寧に頭を下げる。こちらもそれに倣って「お久しぶりです」とお辞儀したところ姪の方も、
「おひさしぶりです!」
と返してくれた。見ないうちに随分と大きくなったし、<これだったら遊園地は大丈夫そうだな>と密かに確信。予定では自宅からそれほど離れていない場所にある昔ながらの遊園地に連れてゆくつもりだった。艶のよい長い髪に見惚れつつ、某魔法少女がプリントされた服の感じから<次のプレゼントはあのキャラクターのおもちゃだな>などと考えたりする。とりあえずはいつも通り二人を自宅に案内して、しばし団欒の時間。その際、妹に『勝利の女神』と彼女が呼ばれていた時のことを振ってみたら、
「あれは偶然だよ。だって、サッカーで応援しているチーム去年リーグ最下位だったもん」
とあっさり言われた。母親になり『女神力』が失われてしまったのか…。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
昼を回った頃に無事目的の場所に到着し、だだっ広い駐車場を姪と手を繋いで歩く。好かれているのか終始ニコニコ顔でいてくれるのでこちらとしても戸惑うことが少ない。
「まずはなんか食べようか。食べたいものある?」
「うーんと、えーっと」
「じゃあアメリカンドック食べる?それと…」
さすが母親と言うべきか、すかさず娘の食べたそうなものを候補に挙げてくれる。遊園地内には各種キッチンカーが並んでいる場所があって、ご飯よりも『わたあめ』に目を取られている姿を見ていたら自然と自分も子供の頃の記憶が蘇ってくる。並んでいる人もいる盛況具合で、我々『大人』用にもおにぎりや飲み物を確保して付近にあってテーブルに座り、青空の下で昼食。親子連れにとっては当たり前の『この感じ』も自分にとってはどこか新鮮で、学ばされることも多い。
「ほら、口についてる」
妹がケチャップのついた姪の口の周りをハンカチで拭う。何気ないことではあるけれど、すかさず取り出した辺り慣れている。隣のテーブルでも似たような光景が繰り広げられているのを感じ、時折『自分にもし子供ができたら』などと思ったりもしなくはないが、まずは段々といい感じの雰囲気になりつつある『あの人』にどう自分をアピールしてゆくかの道のり。
<わりと面倒見がいい部分はアピールポイントだったりするのだろうか?>
小さめのおにぎりを頬張りながらそんなことがぼんやり浮かんだ。特にトラブルもなく食事を終え、いよいよ園内を見回りに行く。入り口にあるノスタルジックな作りの門をくぐり、入ってすぐにあるチケット売り場で回数綴りの乗り物チケットを購入する。ここは入場券不要の上、シーズン中なら余ったチケットも再び使える(らしい)ので通い易さがウリとなっている。
「まず何に乗ろうか?」
「メリーゴーランド!!」
即答だったので、これは姪も事前に考えていたらしい。入ってすぐ、目に付くところにお目当ての『お馬さん達』がぐるぐると回っていて、やはりなのか女の子の方が若干多いように感じる。最初の乗り物なので一人で乗ってもらうのも何となく気が引け、周囲の目は気にはなったが自分も同乗する事にした。乗り心地というか、三半規管が年々弱くなっているせいもあって気持ちいいと気持ち悪いを行き来するような感覚で、妹が面白がって写真を撮っている方向に笑顔を向けるのが結構大変だったり。
「楽しかった!!次は観覧車がいいなぁ!」
目に見えてハイテンションになった姪っ子を押し留められるわけもなく、せがまれるがまま次々と乗り物を『攻略』してゆく。どちらかというと自分たちの番まで並ぶ間が『回復時間』という感じ。途中から感じたことではあるけれど、この日の母親は娘をほとんど『おじさん』任せにしようとしている気配。
<確かにこのテンションに毎日ついてゆくのは大変だ…>
などと思いつつも、何だかんだ言って楽しい。子供時代にトラウマがあって苦手としていた『ミラーハウス』を無事にクリアした後、流石に自分の都合で小休止を挟みたくなりゲーム筐体がいくつか設置してある隅の方のコーナーに姪を誘導する。妹は「ちょっと飲み物を買ってくるから」と一旦別れた。
「じゃあこのゲームやってみようか」
「うん!やってみる!」
そこにあったのは現代となっては古式ゆかしい『ワニ叩き』ゲーム。反射神経を要求されるお馴染みの非常にアクティブなゲームではあるが、初挑戦だった姪にやり方を説明してプレイさせてみたところ割と良い点数に至った。若干ワニの叩き方が容赦ないように感じられたのの、見ている側としてはほのぼのとした光景。その後、
「おじちゃんもやってみて!」
と勧められ何となく挑戦することに。姪が目を輝かせてこちらに向かって「頑張って!!」と言ってくれる。『よし、いっちょやったるか!』の精神が良かったのか、自分でも信じられないほど身体がよく動いて、
「おりゃあああああああ!」
などと奇声を発しながらゲーム終了時間まで飛び出してくるワニ達を次々と叩き続けていった。息を切らせながら最後にモニターに表示された『数字』を見て「あ」っと思った。
「すごーい!!!」と姪。
「100ってすごいの?」
標準がどのくらいなのかよく分からなかったけれど、調べてみてそれが『ハイスコア』の部類であることを知る。子供時代でもこんなスコアを出した記憶はないので姪の応援の力も大きいと感じた。
「もしかして『勝利の女神』の力か!?」
そこで咄嗟に浮かんだとある『仮説』。もしかしたら妹の女神パワーは娘である姪に『継承』されたのではないだろうか?妹がドリンクを抱えて戻ってきたのでそれ以上確かめようがなかったわけではあるが、遊園地からの帰りの車内で妹に話してみたら、
「まあそういうこともあるかもね」
とどこか嬉しそうに答えていた。いっぱい遊んだ疲れもあったのか、後部座席のチャイルドシートで姪が少し眠たそうにしている。今度も彼女に眠っているかもしれない『女神力』を検証する機会が楽しみだなと感じた。あのキラキラした瞳。




