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黒点  作者: フィア
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6章 微少の煌きに――

 後ろをぬるぬる這いずりながら追ってくる黒蛇に、冷や汗が留まる事を知らない。

 奴の口からは、先ほど餌と化した男の血液が溢れ出ている。


 ………………。

 何故だろう。

 人が死んだと言うのに。

 あまり、悲しくない。

 ユキさんがこの世を去った時は、胸が張り裂けるどころか爆発したような痛みだったのに。

 僕の心臓はおかしくなってしまったのだろうか?

 …いや、違う。

 ただ純粋に、僕が彼のことを気に入っていなかった。

 それだけの事だ。


 みんなに笑顔になって欲しいとかほざいておきながら。

 自分が好かない人間のことはどうでもいいって言う事なんだ。

 自分勝手だな、僕は。

 ミドリ達を注意なんて、出来っこないじゃんか。


「おい!ぼさっとすんな!もっと意識を集中させて走れ!」


 前を走るハレ君がそう言う。

 僕は気持ちを切り替えて全力で走った。

 今は生き残る事だけ、考えなければならない。


「アカ!これからどうするよ!?」


 この声は…シロか。狭い通路で音が反響して、どうも聞き取りづらい。

 返事として帰ってきたアカの声は、より耳に届きにくかった。


「そううだだら…  ここれふぁら、ろぐくぉにどぅとぇ ―――ふぉれから…――」

「え? 何!?聞こえないわよ!?」


 キイが聞き返す。2つ前を走る彼女の耳にすら届いていないのか……。アカには伝わっているようだが、どうしても会話が一方通行になってしまっている。この状況下での的確な情報交換は絶望的か…。


 今先頭を走るのは、前述した通りアカ。

 その後ろをミドリ、シロ、ムラサキ、キイ、ハレ君、僕が走っているはずだ。

 そして僕の後ろには……。


 KISHAAAAAAAAAA!


 真っ黒の大型蛇が口を大きく開けて近づいてきていた。

 速度は、そこまで速くない。しかし、どう体を変えようともあのボア亜科の上位種だ。危険度は変わらない…いや、危険度は上がっているのか。

 どちらにせよ、危険だ。危険すぎる。

 という訳で力の限り走っているのだが…問題がある。

 この通路、ある程度行くと道が二つに分かれる。

 一つは従業員ロッカー。

 もう一つは従業員食堂。

 どちらからでも裏口には出られる。

 だが一人でも別の道を行けば、それをフォローしようと後ろの誰かが(少なくとも僕は)その後を追う。このグループは分断されてしまう。

 ……蛇の眼に睨まれた者達の生存確率は――


 高くは、ないだろう。


 あくまで、仮定の話だ。

 しかし最悪は重なっていく物。おまけにこんな状況だ。何が起こってもおかしくない。

 だから、それを防ぐ為、あるいは最悪のケースと遭遇してしまった場合最善の選択をする為に、仲間との意志疎通を図ろうとしているのだ。


「アカ!どっちの道行くの!?」

「hフィジュ亜g歩;亜hjふぢgほい;gは;おいおい!!!」

「いや全然分かんないから!最後のおいおいって何!?」


 ヤバい。そうこうしている内にもうT字路に出てしまう。


「慈雨fが;いおhsじゅいあほp;!」


 何か言って、先頭を走るアカが、右の壁に消えた。

 という事は、従業員ロッカーを選択したのか。

 まぁ、あそこには僕達の武器が保管されている。指紋認証式という贅沢な代物で窃盗はまずあり得ないロッカーにだ。

 今のところ、僕達の装備は品薄どころか無防備だ。銃一丁でも、弾一つでも所持しておきたいのだ。


 僕個人としては食堂へ行って食料を確保するのも捨てがたかったが(実際僕達はお昼休憩の途中だった為空腹が続いている)……後でも可能な事だ。

 というか、アカがロッカーへ行くと決断した時点で僕に決定権は無かったし、何より今は後ろに、あ、さっきよりも近いかも……、もう説明する余裕かない程勢い良く迫って来ている彼がいる。今のうちに万全の装備でこいつを倒しておくのが無難だろう……って何で僕こんなに冷静なんだ?


 僕がふと浮かんだ疑問に走りながら頭を悩ませている中、ミドリとシロが通路に消えていく。

 僕達も急がなければと足を体力の限界まで動かす。

 ムラサキもようやく曲がり、キイが左足の反動で右足を新たな通路へと踏みかけたその瞬間。



 鈍いながらも甲高い金属音と共に、キイの体が進行方向と逆に吹き飛んだ。



『!?』


 ハレ君と僕、混乱。

 目の前の現象についていけてないのだ。

 尻餅をつきながら腰を擦るキイにハレ君が近づき、キイの体を軽く揺らしながら彼女の無事を確認する。


「大丈夫か?」

「う、うーん…」


 良かった。どうやら大事は無いらしい。

 事態は何一つとして好転してくれなかったらしいが。


「な、何だこれ…」


 ロッカーへと続く道を、ただ呆然と見るハレ君。その声に、キイもその道を……自分が走るという行為を弊害された原因、そのものを見る。

 反応は、二人とも似たような物だ。

 ポカンと口をあけ、もうすぐそこに大蛇が迫ってきているのにも関わらず、その場に立ち(キイは座り)尽くしている。

 いったい何がと、僕もその場に急ぐ。


 状況は――――――


 ――――――僕の想像した、最悪のパターンへと傾いていた。


「っ………………!」


 二人の元に駆けつけた僕、絶句。

 目の前の事象に混乱。

 その上に、恐怖と、絶望が上乗りされていく。

 ……神様はどうして、人間に苦痛な道を選ばさせるのだろう。

 その先には、少なからず悲しみが待ち受けているのに。


 僕たちの、行く道は一つになった。

 なぜならば。



 目の前の道は重い金属の扉で、固く閉ざされていた。



「これ、って…」

「防災用、シャッター?いったい誰が…?」


 僕がライオンと戦った後に降りた、あのシャッターと全く同様の物。

 さっきの騒音は、こいつが勢いよく落ちてきた時の衝撃からか。

 数ある問題の中、重大な事は一つ。

 僕たちは、シロやアカ達と、完全に分断されて閉まったのだ。

 予測していても、避けられない事態は避けられないのか。なんて無慈悲な世界だ。

 そんな世界、あっていいのだろうか?

 否だ。そんな世界あっちゃいけない。

 今存在しているこの世界を否定、拒絶……自分の中のありったけの嫌悪を憎しみと化してぶつける。

 運とか、幸せとか……そういう非科学的な物には、もう頼らない。


 頼れるのは、自分たちの力だけなんだ。


「後ろから来てんぞ!」


 ハレ君が叫ぶ。

 後ろを見ると、シュルシュルと舌を伸ばしてこちらに近づく胴長生物がすぐそこにいた。


「行く道は、一つだね」


 僕は、塞がっていないほうの道を見据える。

 その様子に、キイが不安げな顔で、立ち上がりながら此方を向く。

 ハレ君が口を開く。


「何処に繋がっているんだ?」

「食堂よ。従業員食堂。だけどクロ…」

「分かってる」


 そう、この道を進めば、蛇との戦闘は避けられない。

 何しろ、食堂は部屋が広い。隠れる事は出来ても、逃げ切るのは難しいだろう。

 でも。


「もう、こっちしかないんだ」


 二人の顔見て、話す。

 今ある現実と。


「ここで立ち止まったって、アイツに食われるか絞められるかで死ぬだけだよ。………正直、食堂へ行っても生き残るのは簡単じゃない。だけど」


 わずかな、可能性を。




「絶対、僕が守るから。二人とも。だから、心配しないで」




「………馬鹿ね」

「え?」


 キイが嘲笑うような、からかうような、くすくすとした笑いを僕に向ける。

 意味が分からず、ぽかんと口を開ける。


「そんなに震えてるのに、どうやって心配しないで済むのよ」


 自分の体を見る。自分は、服の上からも分かるほど、ケータイのバイブレーションよろしく振動していた。

 顔を赤らめていると、ハレ君が僕の肩に手を乗せた。


「でも、頑張ろうって気にはなったぜ」

「………?」

「少しばっか、ガラにもなく『絶望』ってモンを味わってたんだけどよ…」


 キイも頷いていた。どうやら、希望を失いかけていたのはみんなもらしい。


「お前のおかげでさ。頑張ってみようって思えたんだよ」

「………………」

「アンタが、一言、声を、言葉を、出してくれたから」


 …………。

 嬉しかった。

 今ならどんな困難も跳ね除けられる気がした。


「ありがとう……。…さあ!」


 2メートル近くある警棒を硬く握り締めながら、二人に右手を差し出す。

 少ない可能性を、大きな生の礎にするために。


「走ろう!」

随分更新遅れましたね…(´ヘ`;)

ごめんなさい。


あ、そういえば各キャラの自己紹介が終わってねえじゃねえかと、友達に言われたのですが。

緊張感があまりないのもいかがなものかと思いまして。


次回はクロとキイ、二人の自己紹介が入ります。

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