2章 決意は何処へ――
休憩所に繋がるこの通路は、異常な事態――――――テロや爆弾魔等危険なトラブルに見舞われた時――――――に逃げ込まれるように作った長い通路である。
前半を50mをギザギザな角の多い道、残りの250mは途中中間地点の一回だけ角を曲がるだけの道が続く。
悲鳴は、前者のギザギザの道のりからの声だった。
僕はライオンの側面に立っている。
彼からは死角で見えないが、僕からは丸見え、隙だらけだ。
しかし、ライオンは獲物に狙いを定めているようだった。
狙われているのは、シロ、キイ、ミドリ、そして他の客2人、業務員1人だった。
彼らの危機に遭遇してしまったその時、人数が減っているのが気に掛かったが、その疑問はすぐに解消された。
食い荒らされた頭部が数個生々しく転がっていれば、答えなどすぐに分かる。
血の匂いにクラクラしながらも、僕は意識を集中させる。
一発逆転の瞬間を、待つ。
ライオンが唸る。 まだだ。
ライオンが吼える。 まだだ。
ライオンが跳ぶ。
今だ!
僕は浮いているその体にタックルをかます。空中で抵抗のできないライオンは、頭から通路の壁にぶつかった。
「クロ君!」
ミドリが涙目で僕を呼ぶ。シロやキイ、他の方々も少し安心したように一息安堵する。
……だが。
「…まだだ!」
僕は彼らに、辛いが現実を見せる。
そうだ。これで終わりじゃない。今も、この黒獣の息はあるのだから。
僕は天井に隙間のある所までみんなを連れて行く。全員いることを確認して、僕はシロの方を向く。
「シロ!みんなを連れて、休憩所のシャッター開閉ボタンを押して!そうすれば、ライオンはここから内側に近づいてこれない!」
僕は頭の上の天井、その亀裂を指差す。その先には、分厚い鉄戸が収納されている。
「わ、分かった…けど、すぐにアイツを起きるんじゃないか?まだ休憩室までは結構距離あるぞ?」
シロが向こうにいる真っ直ぐなこの通路で、絶賛体を動かしている途中のライオン君をちらりと見る。確かに、彼が僕たちに到達するのと、僕たちがシャッターの開閉ボタンを起動させるのは、ほぼ同時だろう。
そうなったら、僕らは食い殺されてしまう。
「……シャッターが閉まるまで、僕が時間を稼ぐよ。現状、武器持ってるの僕だけみたいだし…。…………………。………あわよくば」
僕は少しトーンを下げて、ゆっくりと告げる。
唯一戦える者として。
犠牲ではなく、義務として。
「…あわよくば、アイツの息を止める」
「っそ……!………っく、なんでもない。…気をつけろよ」
反論したかったのだろう。
僕を、僕だけを、危険に晒したくないのだ。
出来ることなら、一緒に戦ってやりたい。
シロはそういう人間だ。
だからこそ彼は、自分の無力さを噛み締めるように僕の肩に手を乗せた。
キイとミドリも、同じ風な顔をしていたが、「ごめんね」と言って小走り気味にシロを追いかけていった。
残りの人たちも後に続いていく。
しかし、全員ではなかった。
18くらいの男子が、僕に話しかけてきた。
「どうしました?」
「…な、なぁ。俺、今日彼女とここに来たんだけど、さっきはぐれちゃってさ…。もう、食われちまってるかもしれないけど……」
彼は、悲しそうに俯いた。
それでも、かすかな希望に縋るように顔を上げる。
「…けど、もし生きて、ここまで来たら、その時は……!」
「ちゃんと、貴方の所まで連れて行きますよ」
僕は彼が言うより早く、彼の頼みを先読みした。
お客に対する0円スマイルというよりは、彼を安心させるための笑顔で。
「助けに行きたいんだけど、俺はあんまり戦闘得意じゃないし……」
「大丈夫。心配しないで。困っているお客様を助けるのが、僕たちの仕事ですから」
「……ありがとな。彼女の目印はショートの銀髪と黄色い髪飾りだ。……よろしく、頼んだぜ」
そう言うと、彼は後ろをチラチラ気にしながら、通路の角へ消えていった。
「さて。………起き上がったか……」
僕は100m先で動く黒い塊。
それに対し僕はハンドガンを強く握り締める。
―――――朝までは、園内は優しさに包まれていた。
子供の心配をする親。
彼氏の腕を掴んで歩く女の子。
老後の楽しみとして訪れる老夫婦。
だけど、今の園内は、外は地獄だし、施設の中にはこんな化け物もいる。
正直、ここから生き抜くのは難しいと思ってしまう。
ただでさえ、即死レベルの爪、牙、毒……それらを持っているのに、あの最強ドーピングウィルスまで彼らの味方をしている。
でも、僕は決めたんだ。ここに初めて来た時から。
―――――この笑顔を、一生見守り続けるんだ。
僕は園長の言葉や、始めてきた時の園内巡りの事を思い出す。
今は溢れていない笑顔に満ちていた。
だから、今生き残ってる人だけでも。例え、それが僕の命を落とす事となろうとも。
「僕が、守ってみせる」
ライオンが強靭な顎を持ち上げ、咆哮をあげる。僕を視界に入れ、僕を殺すために、勢い良く走ってくる。
僕はハンドガンを構え、発砲を開始する。
しかし、そんなものは効かないと言わんばかりに、体が裂けるのお構いなしに近づいてくる。
「く………」
恐怖に足を震わしながら、弾の無くなったハンドガンのカートリッジを抜く。
僕はそれを捨て、新しい物を装填する。
カートリッジは、これで最後。
再び構え、再度発砲する。
ライオンの反応は、違う物だった。
「(!? よ、避けた!?)」
ライオンは飼いならされていたとは思えない俊敏さで、体を横に逸らすことを弾をかわした。
何故、か……?
僕の弾を、わざわざ走行速度を削ってまでかわした、その理由。
僕はライオンが弾丸を避けた事について、脳内ディスカッションをする。
僕は思い出に思いを浸らせる。
一年ほど前、アカと一緒に豹の小屋の掃除をした時、暴れ出した豹に銃を使用したときも同じような事があった。
アカは、その後、何と言っていた?
……結論は。
「もうこれ以上、ダメージを受けられない………?」
それ以外考えられない。
窮地に達したケモノは、行動において少し慎重になるとアカから聞いた。
ならば、あの時と同じように、あと1回、多くとも、あと2回銃弾を当てられれば……?
小さな希望が見えたところで、僕は弾の残量を思い出す。
先ほど4発撃ってしまったため、残りは後3発。
この3発で、仕留めなきゃならない。
僕は震える全身に喝を入れながら、拳銃を構える手を直す。
狙いを、集中させる。
僕が、みんなの笑顔を守るんだ。
1発目。右に避けられる。
2発目。右肩を掠るも、不発。
3発目。
撃つ。
弾丸は。
たてがみをすり抜けるが、本体には当たらなかった。
「……………………………」
弾は、もう無い。
ライオンは口を大きく開いて近づいてくる。
距離は20。衝突は避けられない。
「………ふーーーーーっ……」
息を、思いっきり吐く。
覚悟を決める。
彼に食い殺されて死ぬ覚悟を、
ではない。
彼を近距離戦で仕留める覚悟を、だ。
ライオンとの距離、わずか10、9、8、7、6、5、4…、
彼が飛び掛る。
スッ。
僕はそこで持っていたハンドガンを、顔の右……彼にとっては左側に、投げつける。
宙を舞う黒の光沢。
対して黒光りしないライオン君は、彼から見て右に体を逸らす。
大きく隙の出た、彼の左部。
僕は腰に隠しておいたサバイバルナイフを取り出しながら、その大きく開いた空間に体を潜り込ませる。
「どんな生き物で、どんな肉体を持っていても、」
僕は右手を彼の顔前に突き出し、
「目は、生物共通の弱点だ!」
逆手持ちにしていたナイフの刃を、
彼の右目に刺す。
GYAOOOOOOOOOOOOOOOOO!
ライオンはその場に倒れこむ。
僕はナイフを彼の目に残し、足元に落ちていたハンドガンを手にする。
そして彼の顔に歩み寄り。
持っているハンドガンでサバイバルナイフの柄を、トンカチで釘を打つように、力の限り――――
深く、刺した。
今回、クロ君が使用していたハンドガンはワルサーPKK/S。
日本のSPにも採用されているらしい装弾数七発の9mm口径銃です。
ぺらぺらと饒舌に銃の事語ってますが、俺あまり銃に詳しくないです。
なので、変な所があったらご指摘願いたいです。
さて、本文の補足はここまでにして。
はーい。言い訳ターーーイム!
一週間に一度くらいはちゃんと投稿していた小説。
土曜と予告していましたが、なんとか時間ができたので今書いています。
一週間?二週間?それくらい投稿していませんでした。
その理由は…あーーまぁ、自分学生なもんで…。
アレです。試験です。期末ってヤツです。
赤点取りそうだったので、ゲーム機…もとい、ペンを日々持ってパソコン…もとい机に向かっていたのです。
後は……と、あまり長くなってもいけないので、気になる方は活動報告の所を見て下さい。
最後に、投稿遅れてしまい、
申し訳ありませんでした!m(__)m