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黒点  作者: フィア
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9章 機械音声の刃――

 ――SIDE 『KI』 & 『HARE』――






 目が痛いと思い、瞬間的に目をつぶっていた。

 それを光と認識するのには、割と時間がかかった。


 ハレは、まず自分の目を疑った。

 その次に、クロの武器がハッタリではないかと疑った。

 しかし、それは大きな間違いで、幻想の武器ではないと、弾丸を犬達に送り込みながらやっと理解したのである。


「なぁ、あれ、何だよ………?」

「ああ!? なんか言った!?」


 確実に弾をヒットさせながら、それでも急所に当たってくれない犬達に苛立つキイに、ハレは再度尋ねる。


「あれ!何だよいったい!?あの光マジで電気なのか!?」「そうだけど……それが何!?」

「何であんなもんアイツ持ってるんだよ!?」

「話聞いてなかったの? お父さんから貰ったって言ってたじゃない」

「それにしたってあれだけのチート武器は……うをっ!」


 一匹の犬が銃弾を避けて飛び掛かってきた。

 慌てて銃を構え直すが、時すでに遅し。犬はその尋常な大きさの犬歯を鋭く光らせハレの喉元に噛み………。


 つく前にキイの銃弾に頭を撃ち抜かれ、ひれ伏した。


「まず、一匹ね」

「…悪いな」

「いいわ。それにしてもやっぱ銃は使い辛いわね」


 目を細めて狙いを定めながらキイは呟いた。

 ハレはもう一度、クロの方を向く。彼は多少の間合いを保ちながら未だ警戒しているようで、大きな行動を起こしていないようだった。


「………あ?おっとっ」


 また一匹飛び掛かって――今度の奴は左足の爪をたてて――来たので、その爪に拳銃を絡ませる。

 犬の勢いはそのままに、足を掴み宙から地へ堕とす。

 背負い投げ。

 銃や刃物の扱いは酷いが、体術だけは人並み以上とハレは自負する。


 ――ただの機械音痴…じゃなくて、道具音痴なだけじゃない?――

 そう言って笑った自分の女を頭の片隅に浮かべながら、頭をこちらに向けて仰向けに倒れるわんこに銃を突き付ける。

 こいつらが…、こいつらが感染しちまったこの黒が、ユキを殺したのか……。

 意図的な物であろうと、事故による汚染だろうと、許せなかった。


 『黒点』と呼ばれるソレが憎かった。


 ハレは思い出す。

 初めて、黒点に感染した人間を見た時の事。

 その男が、喉仏周辺を真っ黒に染めていて、片手で軽々横転したクレーン車を立て直していた時の事。

 父親は満足そうにその男と握手を交わしていたが、ハレは恐ろしかった。

 右手一つで金属の塊を持ち上げている男が怖くて、ずっと父親の背中で震えていた。


 この犬達こいつらは悪ではない。

 が、その体に在る黒の血肉は悪だ。


「ごめんな」


 足下に倒れる儚い命に、静かに語り掛ける。


「俺、決めたよ」


 ピクピクと、体を震わせている、その命。


「今回の事件が終わったら、


黒点なんて消毒してやるよ」


 そうすれば、お前も報われるのかな、ユキ?


 ハレは引金を引いた。


「………。…お疲れ」

「おう。……あと2体か」


 背中合わせに会話する2人。

 お互いの目の前には同胞を殺され怒り狂う犬。

 警戒を怠らないようにしながら、銃をハレが構えていると、後ろの女の子がやはり苛立ちながら話しかけてきた。


「…あーもう! やっぱダメね銃は! 私には合ってない!」

「そんな事言ったって……ん? ナイフなら俺持ってるけど」

「はぁ!? あるなら早く出してよ!」

「へーへー」


 腰のベルトに隠しておいたナイフをキイに手渡す。

 早速キイはナイフを抜いて見てみる。

 刃の長さを測り、柄の持ち方を変えてみたりといろいろ試して、満足そうな顔をすると。


 目の前の犬の両目をなぞるように一閃。


「んな……………!?」


 ハレは、思わず見入ってしまった。

 それでいて、何一つ見えなかった。

 彼女の素振り、動き、それらを眼球で捉えること出来なかった。


 そこにあるのは、結果。

 得物の切っ先で犬の目を抉ったという現実。


 これが、キイの技術だった。


「あは。これなら楽勝ね」

「………お前一人いれば、全滅させられるんじゃね? ここの動物全て」

「あー…そーでもないわ。いくら斬られても平気な奴とか割といるし」


 キイは狼や、中央館の得体の知れない生物達を頭の片隅に置きながら、犬の心臓部を一突き。犬は最後の一匹しか残っていなかった。

 二人で、その最後の一匹を見る。

 犬は、二人を見て大層驚いていたそうな。

 何でも二人の顔は。


「さて、どうしてくれようかしら、このハチ公」

「いや、安らかに眠らせてやれよ」


 さながら道化師の仮面をかぶったような、薄っぺらい笑顔だったからである。


 GISHAAAAAAAAAAAAAA!


 二人同時に振り向く。

 鼓膜を大きく震えさせる重低音のする方向。

 その先には、クロが坦々と重く太く固い蛇の肉体に血の痕を作っていた。


「あっちもそろそろ終わりね。意外と弱いのかしら、こいつら? それとも慣れた武器を常日頃使いなさいという神様の暗示?」

「……なぁ、キイ」

「ん? 質問なら手短にね」

「ああ。あのさ。アイツ、蛇を…………




 斬って・・・ねえか?」




 ☆=======




 ――SIDE 『KURO』――




 ザシュッ。

 するりと大蛇の尾による猛攻をかわしながら、僕は太い胴体に亀裂を走らせる。

 電撃+斬撃。

 痛みは、想像を絶するだろう。

 その証拠に、激痛を感じさせる何度目かの生々しい咆哮が広い室内に鳴り響く。




 僕が持っている警棒。

 しかし真の姿として、警棒は仮。嘘。真実では、ない。

 その本来の名前は、「音声認識式多重機能槍」、『ハルバート』。


 現在、その矛先にはよくある只の二又の金属はない。

 あるのは、肉片を切り裂き、肉塊を貫き、爆発的で一瞬の雷鳴を轟かせる、電気を纏ったやいば

 二又の薄い鉄塊には、スラリと煌く直刃。峰も鎬もない二つの刃は三日月状に鋭さを目立たせている。


 柄は前述した通り、大まかな操作を行う為のボタンがついている(といっても、二つしかない)。

 過度な装飾はされておらず、ただ強度と攻撃性を高めるだけの物である。


 切っ先には雷の光。

 昔父さんに聞いた話では、それこそ雷の如く威力だとか。


 ぶっちゃけ、嘘だ。

 この間施設を借りて計測した所、雷のような何億Vなんて出やしない。

 最高でもせいぜい50万V程度だ。

 それでも、威力は高い。

 実際、父さんはこれで対電用スーツを着込んだ黒点感染犯罪者を捕まえたらしい。


 音声認識システムは僕が独自に搭載した人口知能による仕組み。

 父さんがコレを扱っていた時は柄の部分はごちゃごちゃしてたし、何より重かった。

 非力な現代っ子の僕にとっては、この重さはお米の袋(2キロ)を片手で三つ持つのと同等の辛さだった。

 よって、数年かけて軽量化をさせていただいた。

 結果、薄いチップだけ埋め込めばいいこの人口知能を搭載する事となった。


 さらに特殊機能も電撃以外の物へと変えられる。

 ロッカーにある付加デバイスを柄と刃を挟むように装着すれば、電気を変換する事でいろんな状況に対応できる。


 機能はコレだけに留まらない。

 これまたロッカーにあるのだが、別形状の金属を二又刃と取り替える事により、全く種類の違う武器へと変貌する。


 ……………もっと、ぶっちゃけると。


「コレ、チート武器です」

《何を言ってるんですか、あるじ?》


 蛇と対峙している僕の呟きに、早速ハルバートが反応した。

 ……僕、いつも思うんだけど、こうやって手元の物に向かって話しかけるって、結構シュールだと思うんだよね。

 なんか、見えないものと話してるみたいで。


《確かに、こんなに有能性に溢れていて、柄の部分は三つに分裂できてコンパクト、その上重さは2キロにも満たないという持ち運び便利な代物は、他に存在するはずがないので、チートなんて言われても致し方のない事ではありますが》

「そういうのは、自分で言っちゃダメだろ? お前は何もやってないんだし。ソレ、自分が裕福な家庭の子だからって「家がお山のような大きさなの~」って言うのと同じだからね?」

《主、例えが分かりにくい上に微妙です》

「おまっ……! 自分の言う事が批判されたからってそんな事言うなよ!」

《そんな事より、いいんですか? あまり残りのバッテリーも少ないし。それよりもまず、蛇、来てないですか?》

「え゛。」


 前を見る。

 ハルバートの助言通り、蛇の艶かしく照る鱗が、眼前にあった。

 腹に、衝撃。


「ぐふっ!」


 後ろに、背中から倒れる。

 受け身をとって、ダメージを減らし、追撃が来ない内にある程度の距離を置く。

 とっさの反応が出来たため、尾で腹から倒されたが、あまり痛くはない。


《……ったく、何やってるんですか?》

「お前が長いお話を聞かせてくれたせいだろ……おっと」


 再度の尾による攻撃。

 今度は思い切り叩いたのか、尾の落下地点の下、その床は大きく抉れていた。

 その代わり、自分への反動が大きかったのだろう、大蛇はその身を麻痺させたようだった。

 チャンス。


 それを見過ごすほど僕も馬鹿じゃない。


「ハルバート、ちょっとごめん」

《え…………? ま、まさか……!》

「行ってらっしゃい!」


 僕は槍投げの要領で、刃から得物をぶん投げた。

 後で覚えておいて下さいよ~!と悲鳴がまっすぐ飛んでいく機体と共に離れていく。

 知ったこっちゃない。どうせ単独では特に出来る事などないのだ。ビビリの僕でも恐れる必要など在らず。


 矛先が向かうは上。 

 狙うは蛇の頭――――


 の、真上のシャンデリア。

 その、接続部。


「『ハルバート』、電圧MAX!」

《くっ…、ホント、覚えておいてくださいよ!》


 そう言って、彼女は自身を眩しい白に染めた。

 稲妻。

 今の彼女はソレだったのだ。


 シュッ――――!


 舞踏会や宴会を妖艶に照らす大きな灯火が、そのまま明るさを失う。

 真下にあるドでかい生命体の頭に自由落下したのは、言うまでもない。


 ハルバートは現実にある槍です。


 実際、矛先を槌やいろんなものと取り替える事の出来る有名な槍です。


 ……しかし、これは本当にホラーなのか? いい加減SFにすべきではないか?


 そうお思いのそこの貴方。大丈夫。次は若干怖い部分を挟みます......

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