第9節:数字が語る真実 給湯室改革により欠勤率が激減。成果がデータで証明される中、西園寺に追い詰められた奈々を、凛子が静かに、かつ完璧に救い出す。
第9節:数字が語る真実 給湯室改革により欠勤率が激減。成果がデータで証明される中、西園寺に追い詰められた奈々を、凛子が静かに、かつ完璧に救い出す。
「森下さん! 大変ですよ!」
佐藤奈々さんが、真っ青な顔で給湯室に駆け込んできた。
彼女の手は小刻みに震えている。
「西園寺部長に、無理なノルマを押し付けられて……。もう、息が苦しくて……」
彼女はそのまま崩れ落ちそうになった。過呼吸の予兆だ。
私はすぐに彼女の肩を抱き、温かい「エゾウコギ」の茶を口に含ませた。
「大丈夫。まずはゆっくり、私の声に合わせて息を吐いて。……吸うことは考えなくていいから」
奈々さんの呼吸が次第に整っていく。
そこに、ハイヒールの音が近づいてきた。
「あら、サボりかしら? 佐藤さん、まだ企画書が終わっていないはずだけど」
西園寺部長が現れた。
私は奈々さんを背中に隠すようにして、静かに西園寺部長を見つめた。
「彼女は今、体調を崩しています。部長、彼女をこのまま働かせるのは、業務効率の面でもマイナスかと」
「清掃員が口を出さないで。数字も出せない無能は、這いつくばって働くしかないのよ」
「……数字、ですか」
私は、総務部長から渡されていた今月のレポートを思い出した。
「西園寺部長、ご存知ですか。このフロアの欠勤率が、先月に比べて10パーセント低下しています。特に、この給湯室を利用している社員の生産性指標は、全社でトップです」
「……なっ!?」
「彼女がここで休む数分間は、その後の数時間の集中力を生むための投資です。……社長も、その『数字』を高く評価されていますよ」
西園寺部長は言葉に詰まった。
合理主義を掲げるこの会社で、「数字」と「社長」を出されては、反論の余地がない。
「……チッ。精々、お茶ごっこを楽しんでいなさい」
彼女は忌々しげに踵を返した。
奈々さんが、私の服の裾をぎゅっと掴んだ。
「森下さん……ありがとうございます。私、凛子さんみたいになりたいです……」
「私はただの掃除婦ですよ、奈々さん。……でも、温かいお茶なら、いつでも淹れますから」




