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第7節:特命担当の日常   社長室への出入りが始まった凛子。不眠に悩む九条へ「頑張らない」健康法を提案し、合理主義者の彼を三日で変えてしまう無自覚無双。

第2章 経営を救う一滴の雫


第7節:特命担当の日常   社長室への出入りが始まった凛子。不眠に悩む九条へ「頑張らない」健康法を提案し、合理主義者の彼を三日で変えてしまう無自覚無双。


「失礼します。備品の補充と、清掃に参りました」


私がノックをして社長室に入ると、そこにはデスクに突っ伏したまま動かない九条社長の姿があった。

パソコンのブルーライトが、彼の青白い顔を不気味に照らしている。


「……ああ、森下か」


顔を上げた九条社長の目は、充血していた。

机の上には、飲みかけの冷めたコーヒーと、数種類の胃薬のシートが散乱している。


「社長。また、それを飲んでいるのですか」


「合理的だろう。痛みを止め、覚醒を維持する。仕事の効率を最大化するにはこれしかない」


私は深いため息をついた。

この人は、かつての私と同じだ。

自分を機械だと思い込み、部品が摩耗しても油を注いで使い潰そうとしている。


「効率、ですか。……今の社長の脳は、ひどく浮腫んでいます。その状態での判断が、本当に会社にとって合理的だと言えますか?」


「……何だと?」


私はワゴンから、持参した小さな魔法瓶を取り出した。


「今日は清掃のついでに、これを置いていきます。中身は生姜とナツメを煮出したものです。薬ではなく、ただの『温かいおまじない』だと思ってください」


「おまじない、だと?」


九条社長は鼻で笑ったが、私が差し出したカップを受け取った。

湯気と共に立ち上る甘くスパイシーな香りが、殺風景な執務室に広がっていく。


「それと、これを。一分でいいので、椅子に座ったまま肩甲骨を寄せてください。呼吸を止めずに」


「……そんなことで何が変わる」


「変わりますよ。社長は今、呼吸を忘れています。まずは酸素を取り込んでください。……それでは、私はこれで」


私は掃除を終えると、長居せずに部屋を出た。


三日後。

九条社長が、深夜の給湯室にやってきた。

その顔からは、あのどす黒い隈が消えかけていた。


「……三時間、泥のように眠れた」


「それは良かったです」


「胃薬も今日は飲んでいない。森下、君の言った通りだ。私は……呼吸を忘れていたらしい」


彼はそう言って、少しだけ自嘲気味に笑った。

合理主義の権化が、科学的な薬品ではなく、一杯の茶と簡単なストレッチに屈した瞬間だった。

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