第5節:呼吸を整える仕事の価値 給湯室改革に着手。社員の生産性が向上し、総務部長をも驚かせる。
第5節:呼吸を整える仕事の価値 給湯室改革に着手。社員の生産性が向上し、総務部長をも驚かせる。
私は早速、給湯室の運用を少しだけ変えることにした。
「備品を自由に使っていい」という社長のお墨付きを得たのだ。
まず、給湯室の掲示板に、小さな手書きのボードを置いた。
『本日のおすすめ:集中力が切れた方に「レモングラス&ローズマリー」』
『イライラが止まらない方に「菊花&クコの実」』
最初、社員たちは怪訝な顔をしていた。
しかし、過呼吸から救われた奈々さんが「これ、本当に効くんです!」と触れ回ったおかげで、一人、また一人と試す者が現れた。
「ねえ、なんか今日の午後、仕事が捗るんだけど……」
「わかる。いつもなら胃が痛くなる時間なのに、全然平気だわ」
給湯室周辺の部署で、明らかに午後の空気感が変わった。
ギスギスした声が減り、タイピングの音が穏やかになる。
一週間後、総務部長が驚愕のデータを持って給湯室に駆け込んできた。
「森下さん! 君の部署のフロア、残業時間が先週比で15%も減っているんだ! それに、体調不良による欠勤もゼロだ!」
「それは、皆さんが上手に休憩を取られるようになったからでしょう」
私は淡々と答えながら、ハーブの在庫を確認する。
しかし、平和な時間は長くは続かなかった。
給湯室のゴミ箱に、大量のコーヒーかすがわざと撒き散らされているのを見つけた。
掲示板のボードには、赤ペンで「掃除婦の分際で調子に乗るな」という汚い文字。
西園寺部長たちの「嫌がらせ」が始まったのだ。
「……ふう」
私は怒りを感じるよりも先に、ただ悲しくなった。
せっかく整い始めた「呼吸」が、また乱されようとしている。
私は黙々と掃除を始めた。
汚された場所を、以前よりも美しく。
恨みをお茶に混ぜれば、それは毒になる。
私はただ、無心に磨き続けた。




