第4節:初めての特命 社長の胃痛再発。薬膳の知恵を披露し、非公式な体調管理担当に任命される。
第4節:初めての特命 社長の胃痛再発。薬膳の知恵を披露し、非公式な体調管理担当に任命される。
それから数日、九条社長は毎晩のように給湯室を訪れるようになった。
「森下、今日は胃が重い。会議が長引いてな」
「それは、気の巡りが滞っているせいです。今日は生姜と紫蘇をベースにしますね」
私は手際よく茶を淹れる。
九条社長は、給湯室の丸椅子に座り、私の作業をじっと眺めていた。
「君は不思議な女だな。前職は何をしていた?」
「……ただの、サラリーマンです。頑張りすぎて、壊れただけの」
私はそれ以上語らなかった。
九条社長も、深追いはしてこなかった。
彼はただ、出された茶を飲み、私の顔を見るだけで、目に見えて活力を取り戻していく。
「森下。一つ、特命を与えたい」
「……お断りします」
即答すると、九条社長は苦笑した。
「まだ内容も言っていないぞ。……私の体調管理を、非公式にサポートしてほしいんだ。君が淹れる茶と、その知識があれば、私はもっと戦える」
「……社長。私のモットーは『絶対に頑張らない』なんです。戦うためのサポートは致しかねます」
九条社長は驚いたように目を見開いた。
この会社で、彼の命令を拒絶する人間などいなかったのだろう。
「……だが、君がサポートしてくれないと、私は近いうちに倒れるぞ。そうなれば、この会社は崩壊だ。清掃員の君も困るだろう?」
「それは……」
合理主義者の彼らしい、卑怯な言い草だ。
その時、おつまみモンスターが再び現れた。
『モグ……パクパク……』
私の「また競争に巻き込まれる」という恐怖を食べてくれた。
そして見せてくれたビジョン。
それは、複数の扉が並ぶ廊下。
どの扉を開けるかは、自分自身で選べるという「自由」の象徴だった。
「……分かりました。ただし、私はあくまで『清掃員』として振る舞います。そして、社長に『休むこと』を強制する権限をいただけるなら」
「……ふっ。厳しいな。分かった、契約成立だ」
九条社長は、満足げに微笑んだ。
その笑顔は、冷徹な皇帝というよりは、いたずらに成功した少年のようだった。




