第26節:不眠症が解消した九条。深夜のサロンで疲れ果てて眠る彼は、無意識に凛子へ寄りかかり膝枕で熟睡する。目覚めた彼は「君の側では警戒心が解ける」と本音を漏らす。
第26節:不眠症が解消した九条。深夜のサロンで疲れ果てて眠る彼は、無意識に凛子へ寄りかかり膝枕で熟睡する。目覚めた彼は「君の側では警戒心が解ける」と本音を漏らす。
九条社長の不眠症と胃痛は、今ではほぼ解消されていた。
社長室のデスクの引き出しに山のようにストックされていた胃薬は、使われないまま使用期限切れになりつつあるという。
しかし、それでもメガベンチャーのトップとしての激務がなくなるわけではない。
ある深夜。
私が明日のハーブの仕込みのためにサロン(一部は24時間利用可能になっている)に立ち寄ると、ソファの隅でうたた寝をしている人影があった。
「……社長?」
九条社長だった。
パソコンを膝に置いたまま、首を不自然に曲げて眠り込んでいる。
「こんなところで寝たら、風邪を引きますよ。……社長、九条社長」
私がそっと肩を揺らすと、彼は微かに目を覚ました。
しかし、いつもならすぐに鋭い光を取り戻すはずの瞳が、今はとろんと霞んでいる。
「……ん……。森下、か……」
彼は呟き、あろうことか、そのまま私の膝に頭をこてんと乗せてきたのだ。
「えっ……ちょ、社長!?」
「……温かいな……。いい匂いがする……」
彼は私の膝を枕にしたまま、再び深い寝息を立て始めた。
私は動くこともできず、ただ彼の手から落ちそうになったパソコンをテーブルに置くことしかできなかった。
(……仕方ないですね)
私は「答えを決めない/保留する」ことにして、彼が目覚めるまでそのまま待つことにした。
翌朝。
窓から朝日が差し込んできた頃、九条社長はようやく目を覚ました。
状況を把握した彼の顔が、見る間に赤く染まっていく。
「なっ……! 私は、何を……! す、すまない、森下!」
「おはようございます。よく眠れましたか?」
私が淡々と尋ねると、彼は頭を抱えながら深く息を吐き出した。
「……ああ。驚くほど熟睡してしまった。……なぜか、君の側では、どうしても警戒心が解けてしまうんだ。無防備になる自分が、少し怖いほどに」
「それは、社長ご自身が『休むこと』を許可できるようになったからです。良い兆候ですよ」
私は平静を装って答えたが、内心では、彼の無防備すぎる姿に胸が大きく揺さぶられていた。
その夜、自分のためにお茶を淹れた時、久しぶりに**おつまみモンスター**が現れた。
しかし、もはや私が抱えている「負の感情」はほとんどない。
彼は私の心をそっと撫でるように触れ、「温もりの輪が広がる」穏やかな映像だけを送ってくれた。
翌日、執務室のソファが「仮眠用」と公言され、私が選んだアロマディフューザーがちゃっかり設置されていたのは、彼なりの照れ隠しだったのだろう。




