第20節:サロン建設開始 週末の改装作業。凛子の見事な指揮で進む中「頑張りすぎる恐怖」を抱くが、おつまみモンスターのビジョンで自分のペースを取り戻す。
第20節:サロン建設開始 週末の改装作業。凛子の見事な指揮で進む中「頑張りすぎる恐怖」を抱くが、おつまみモンスターのビジョンで自分のペースを取り戻す。
週末のオフィス。
給湯室の本格的な改装作業が始まった。
「そこの棚は、もう少し右へ。動線が詰まってしまいますから。……奈々さん、その観葉植物は窓際に」
「了解です、凛子さん!」
私は作業着に着替え、業者とボランティアの社員たちに指示を出していた。
壁紙は目に優しい淡いグリーンに張り替えられ、無機質だった蛍光灯は、温かみのある間接照明に変更されていく。
「森下さん、このハーブの瓶はどこに置く?」
「こちらのカウンターにお願いします。ラベルが見えるように並べてください」
私の指示は的確で、作業は驚くほどスムーズに進んだ。
前職で大型イベントを仕切っていた頃のプロジェクト管理能力が、こんなところで役に立つとは。
「掃除婦の道楽だろ」と冷やかしに来た一部のエリート社員たちも、手際よく進む作業を見て、いつの間にか無言で立ち去っていった。
しかし、作業が佳境に入った頃。
私の胸の奥に、チクッとした痛みが走った。
(……また、私は仕切っている。また、完璧を目指して、頑張りすぎているのではないか?)
過去のトラウマが蘇り、息が浅くなる。
その時だった。
『モグ……モグモグ……』
足元に、**おつまみモンスター**がぽってりと現れた。
彼は私の足にすり寄ると、溢れ出そうになった「頑張りすぎる恐怖」を美味しそうに吸い取ってくれた。
代わりに、脳内に静かな映像が流れ込む。
それは、ゆっくりと規則正しく歩く亀の姿。
「ペースを守る大切さ」。急ぐ必要はない、自分の歩幅で進めばいいというメッセージだった。
「……そうね。焦らなくていい」
私が深く息を吐き出した時、背後から声がした。
「……ずいぶん、居心地がいい空間になってきたな」
振り返ると、私服姿の九条社長が立っていた。
彼は完成に近づきつつあるサロンを見渡し、満足そうに頷いた。
「ありがとうございます。社長も、手伝っていかれますか?」
「私は不器用だからな。君たちの邪魔はしないでおく」
そう言って笑う彼の顔は、会社の皇帝ではなく、ただの一人の青年のようだった。




