第19節:新たな提案 給湯室を「誰もが序列を忘れて休めるサロン」にする計画書を提出。九条の合理的な問いに凛子が答え、会社のオアシス作りが始動する。
第4章 戦わない居場所
第19節:新たな提案 給湯室を「誰もが序列を忘れて休めるサロン」にする計画書を提出。九条の合理的な問いに凛子が答え、会社のオアシス作りが始動する。
「……『リラクゼーション・ティー・サロン』計画書?」
九条社長は、私が提出した数枚のプリントを前に、少しだけ眉を上げた。
「はい。現在の給湯室を改装し、誰でも無料でハーブティーを楽しみ、短時間の休憩ができるスペースにする提案です」
私は静かに、しかしはっきりとした声で説明を始めた。
「ルールは二つだけ。『序列を持ち込まないこと』、そして『温かいものを大切にすること』。それだけです」
「……理念は美しいが」
九条社長は、合理主義者としての顔を覗かせた。
「企業である以上、投資対効果(ROI)はどうなる? 改装費、ハーブの仕入れ代、そして何より社員の休憩時間による稼働の減少。これをどう回収するつもりだ?」
私は手元の資料の次ページを指し示した。
「現在、当社の離職率は過去最高を記録し、プロジェクトの遅延が相次いでいます。採用コストと遅延による損失額に比べれば、サロンの維持費など微々たるものです」
「……ほう」
「温かいものを飲んで『今ここで整う境地』を取り戻すことで、午後の集中力は向上し、ミスの軽減やコミュニケーションの改善が見込めます。結果的に、回収は十分可能です」
九条社長の目が、わずかに輝いた。
「……君の前職での手腕が、少しだけ見えた気がするな。よかろう、試してみよう。予算と期間の枠を組むから、進めてくれ」
「ありがとうございます」
私が社長室を出ると、廊下で謹慎中(権限停止中)の西園寺部長とすれ違った。
彼女は私の手元のファイルに視線を落とし、鼻で笑った。
「サロンですって? 甘いわね。そんなお茶遊びで、この会社の殺伐とした空気が変わるわけないじゃない」
彼女の言葉には刺があったが、以前のような憎悪は感じられなかった。
むしろ、どこか気になっているようにすら見えた。
「変わるかどうかは、『答えを決めない/保留する』ことにしておきましょう。もし完成したら、西園寺部長もぜひいらしてくださいね」
私が微笑むと、彼女は「……ふん」と顔を背けて去っていった。
給湯室に戻ると、奈々さんが待っていた。
「凛子さん! 社長の許可、出ましたか!?」
「ええ。奈々さん、一緒にオアシスを作りましょうか」
「はいっ!」
奈々さんの弾けるような笑顔から、私たちの新しい計画が動き出した。




