第13節:トラウマとの対面 九条からのエリート復帰の打診を正式に断る凛子。西園寺の嘲笑にも「答えを決めない」姿勢で流す。
第3章 毒気が抜けるお茶
第13節:トラウマとの対面 九条からのエリート復帰の打診を正式に断る凛子。西園寺の嘲笑にも「答えを決めない」姿勢で流す。
「社長。先日のお話ですが、正式にお断りさせていただきます」
翌日、私は社長室を訪れ、九条社長にそう告げた。
彼は少しだけ眉をひそめ、手元のペンを置いた。
「理由は? 君の能力なら、経営企画部でも必ず成果を出せる。清掃員のままでは、君のキャリアが——」
「キャリアなど、私には不要です。私は、競争社会には戻れません。誰かと比べられ、数字に追われ、自分や他人の心を削りながら生きる場所には……二度と」
私の脳裏に、前職でのバーンアウトの記憶がフラッシュバックする。
鳴り止まない通知音、徹夜明けの眩しすぎる朝日、胃に流し込むエナジードリンクの味。
心身が完全に「壊れる」感覚。
ふと、足元に**おつまみモンスター**が現れた。
『モグ……パクパク……』
彼は私の「トラウマの感情」を吸い取り、代わりに「今ここで整う境地」を繰り返し脳内に送ってくれる。
静かな湖畔、温かい茶碗の感触、ただそこにあるだけの自然。
「……私は、ここでできることをさせてください。清掃員として、皆さんが休める環境を作ること。それが私の望みです」
九条社長は深く息を吐き、頷いた。
「分かった。君の意思を尊重しよう」
社長室を出ると、廊下で西園寺部長と鉢合わせた。
彼女は私の顔を見て、鼻で笑った。
「聞いたわよ。社長の引き抜きを断ったんですって? 結局、掃除婦には掃除婦の場所がお似合いってことね。自分でも分かってるじゃない」
「……そうかもしれませんね」
私は平静に受け流し、一礼してその場を去った。
西園寺部長は、反論されないことが逆に気に入らないのか、忌々しそうに舌打ちをしていた。




