第10節:初めての危機突破 炎上する重要プロジェクト。九条の依頼で現場に投入された凛子は、お茶一杯で殺伐とした空気を変え、チームを再始動させる。
第10節:初めての危機突破 炎上する重要プロジェクト。九条の依頼で現場に投入された凛子は、お茶一杯で殺伐とした空気を変え、チームを再始動させる。
「森下、すまないが手を貸してくれ」
九条社長が、珍しく切迫した表情で私を呼び出した。
重要プロジェクト「ネクスト・ゲート」のチームルーム。そこは、怒号と絶望が入り混じる戦場と化していた。
「あと三日で納品なのに、バグが取れない! どうすんだよ!」
「お前の設計が甘いからだろ!」
メインエンジニアとリーダーが、掴み合いの寸前だった。
九条社長は彼らを冷徹に見下ろしたが、その瞳には焦りの色が混じっている。
「……あいつらの脳を、冷やしてやってくれ。今のままでは、三日以内に全員が潰れる」
私は頷き、ワゴンの準備を整えた。
持ってきたのは、鎮静効果の高い「ジャスミン」と、脳の疲れを取る「クコの実」、そして微かな甘みで幸福感を与える「甜茶」のブレンドだ。
私は無言で部屋に入り、全員のデスクにカップを置いていった。
「掃除婦が何しに来た! 邪魔だ!」
「……どうぞ。温度を調整してあります。一気に飲めますよ」
私の淡々とした声に毒気を抜かれたのか、エンジニアが渋々カップを煽った。
……沈黙が流れる。
「……あ」
誰かが小さく声を漏らした。
部屋を満たす爽やかな香りが、澱んでいた空気を塗り替えていく。
「なんだこれ……。頭の中の霧が、晴れていくみたいだ……」
「……悪かった、さっきは。俺もテンパってた」
リーダーが、エンジニアに頭を下げた。
殺気立っていた空気が、驚くほど急速に「凪」の状態へと変わっていく。
「……再開しましょう。今度は、別の視点からコードを見直せそうです」
九条社長が、背後で小さく息をつくのが分かった。
私は会釈をして、静かに部屋を出た。
お茶一杯が、数億円のプロジェクトを動かした。それを知るのは、社長と私だけだった。




