転生
目を開けた瞬間、理解した。
――また、戦場だ。
鼻を刺す血の匂い。
焼けた木材の煙。
砕けた石畳の感触。
視界に転がる死体を見て、俺はため息をついた。
「……十七回目」
確認するように呟く。
驚きも恐怖もない。
あるのは、確信だけだ。
俺は、この世界に何度も呼ばれている。
剣と魔法の世界。
勇者が必要な世界。
そして――
勇者が必ず死ぬ世界。
足元に落ちていた剣を拾う。
刃は欠け、血に濡れている。
柄の内側に刻まれた文字が見えた。
『ユウタ到達』
……日本語。
口角が、わずかに上がった。
「お前も、ここまで来たか」
記憶にある。
ゲーム好きで、軽口ばかり叩いていた大学生。
『俺、勇者向いてると思うんですよ』
そう言って、三日で死んだ男。
剣を握る。
重さが、現実を思い出させる。
壁には落書きがあった。
『がんばれ勇者』
……何人目だ、これを書いたのは。
俺は知っている。
この街は三日後に滅びる。
王国は撤退し、民は見捨てられる。
なぜなら――
前の人生で、ここに住んでいたからだ。
背後から怒鳴り声。
「おい! 生きてるなら西門へ行け!」
鎧姿の兵士たち。
……西門。
そこも、助からない。
だが今は言わない。
「了解しました」
俺は従うフリをして歩き出す。
瓦礫の前に、小さな影。
少女だった。
「……家が、なくなった」
同じ言葉を、前にも聞いた。
「名前は」
「……ミリア」
やっぱり、か。
前の人生で、俺はこの子を守れなかった。
その前も、その前も。
だが――
今回は違う。
俺は膝をつき、視線を合わせる。
「ついて来い」
「……お母さんは?」
「……俺が守る」
ミリアの手を取る。
小さくて、冷たい。
腰の剣を見る。
『ユウタ到達』
過去の失敗が、そこに刻まれている。
「……よくやったな」
俺は剣を抜く。
「次は、俺の番だ」
その瞬間、頭の奥に声が響いた。
《目覚めましたね、転生者》
いつもの声。
神の声。
《使命を授けます》
「知ってる」
《魔王を討ち、世界を――》
「違う」
初めて、その声を遮った。
空を見上げる。
「俺はもう、勇者はやらない」
《拒否は――》
「聞け」
声が低くなる。
「この世界は、何度も同じ失敗をしてる」
《……》
「人を呼んで、戦わせて、死なせて、また呼ぶ」
剣を地面に突き立てる。
「それを“救い”と呼ぶなら」
一歩、踏み出す。
「――俺は、その救いを壊す」
《……想定外の選択です》
風が吹く。
血の匂いが流れる。
俺はミリアの手を引く。
「安心しろ」
「……?」
「この世界は、もう一度やり直す」
背を向ける。
英雄の道へではない。
神の用意した筋書きでもない。
俺は歩き出す。
転生を終わらせるために。




