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とりあえずしいたけを拾う

作者: 月見亜人
掲載日:2026/01/30

単語→風鈴、しいたけ、パスポート

ジャンル→ファンタジー




「なんっだここは!?」


いつものように目が覚めて起き上がった僕の目に映る景色は、それはそれは普通じゃなかった。

薄っぺらいツギハギだらけの布団に板のズレた天井。極め付けにはヒビを補修した跡が見られる窓だ。少なくとも僕の住んでいる部屋はもっとマシな布団で、天井も綺麗だし、窓にヒビなんか入っていない。

訳の分からない状態に困惑していると、扉をトントンと叩く音が聞こえた。反射で「どうぞ」と応えてしまう。

入ってきた人は茶や黒、グレーの布を継ぎ合わせた服を着ていた。裾を紐で結っているから……何かしら動く作業をしている人、か?


「おはよう。大きい声が聞こえたからどうしたのかしらと思ったけど……」


目尻を細めて僕を見つめるのは、誰なんだろうか。ぼんやりと見つめ返していると、頭の奥がズキズキと痛む。ズキンッと一際大きな痛みに耐えきれず、こめかみに手を当て目をギュッと閉じた。


その瞬間、脳内にこれまでの記憶が全て流れ込んだ。


そうだ。僕はトラックに轢かれて死んだ。死んだ後、僕は魂のまま世界を彷徨っていて……。チリン、と風鈴の音が聞こえたと思ったら、この体に入っていったんだ。

記憶が流れ込んでくる。この体の僕は、この貧乏な家の一人息子。そして目の前にいるのは、母さんだ。


「おはよう母さん。ごめん大きな声を出して。何でもないよ」


そう伝えると母さんはホッと安心そうな顔をして部屋を出ていった。これから畑仕事があるのに、男手が減ることを心配していたんだろう。

母さんが出ていったのを見届けると、ふむ、と顎に手を当てて考え事を始めた。朝食までまだ少し時間があるだろうから、これからのことを整理する時間ぐらいはあるだろう。

まず、僕はこの貧乏な家の一人息子。母親と二人で暮らしている。父親はとっくの昔に死んだ。

ここはある男爵の領地で、僕たちは小さな畑で穀物を育てている。収穫物の一部を税として納めているが……、二人分の食い扶持が賄えるギリギリのラインだ。そして何より食事がまずい。これは由々しき自体だ。

僕がなぜこの体に入ったのか分からないけど、こんなひもじい生活をずっと続ける気はない。僕の持つ知識と、僕ができることを最大限に使って、絶対に贅沢な生活をしてみせる……!


そうと決まれば早速。


「母さん!少し裏の林に行ってくるね。すぐ戻るから」


「そうかい?もう朝飯はできるからね、早く戻っておいでね」


この体の僕の記憶が正しければ、裏の林にあるはずだ。この、まずい食卓を一気に変えることができるあの食材が!

家……というより小屋のようなものを飛び出し、裏の林に駆け込む。この林は風除けとしか認識されておらず、ここに植生しているものを食べるという感覚はこの世界の僕にはなかったようだ。

ということはつまり。


「あった!しいたけだ!」


旨味の素、きのこが群生しているというわけだ。念の為類似のツキヨタケではないかよく確認し、暗紫色のシミのないものを選んで摘んでいく。

きのこがあれば、今まで食していた山菜がゆとも相性がいい!それに、しいたけは干しても美味いし、焼いても美味い!

ウキウキとしながら、更に先のことを考える。

この世界では僕が食べられると知っているけど食べていない食材がいくつもあるみたいだ。僕はそれでお金を稼いでいく!そうすればきっと、母さんも僕も今までみたいな貧しい生活から抜け出せるはずだ……!そして、金持ちになったらもっとマシな家に住める!


「よーし、しいたけよ、お前が夢の始まりのパスポートだ!」


摘んだしいたけを手に掲げ、大きな声で宣誓する。



どこか遠くで、チリン、と音が響いた気がした。

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