第2話 メタモルフォーゼ☆
第2話です!
「スティグマの大量発生よ!危ないから、貴女はここに居てちょうだい。」
神凪は私の肩を叩くと外へと走り出した。スティグマ。3つの目、薄ら笑いを浮かべる口を持った人型の真っ黒な化け物。その怖さは痛いほど知っている。
――合格だよ。キミには魔法少女の素質がある。
朔夜に言われたあの言葉。私も魔法少女になれる。なら、ここで大人しく待っている訳には行かない。
「……!貴女……」
気づいたら私は、あの時みたいに神凪の服の裾を掴んでいた。
「……私も、連れて行ってください」
「………………」
私は真剣な瞳で神凪を見た。暫くして、神凪はため息をついた後、私の頭を撫でた。
「……分かったわ。貴女はまだ戦い方を知らない。だから、無理しないで安全第一でね」
そのあと、ホールの片隅の箱から1つのステッキを取り出して、私に渡した。黒の棒に青い石が付いているシンプルな物だ。
「それには仮の衣装が試験的に組み込まれているわ。使う時は、『メタモルフォーゼ』と唱えなさい」
「分かりました」
その後、外に出て、私は神凪のステッキの後ろに乗り、例のスティグマが大量発生している現場へと向かった。
ー
「……これは…………」
現場で私が見た光景は、倒れている20人以上の人達に暴れ回るスティグマの姿。人と同じ数が居るはずだ。つい、神凪に「連れて行って欲しい」と言ったのは間違いだったかもしれない。実物のスティグマを見ると、少し前に襲われたあの光景を思い出してしまう。その時、神凪が私の肩を叩いた。
「……怖い?」
「……当然です……」
私の言葉を聞いた神凪は私に向けてステッキを向けた。
「今の貴女には、戦う為の力がある。恐怖するのなら、その恐怖でさえも、戦う為の力にしなさい」
「恐怖を……力に……」
怖い。この気持ちをスティグマをぶつけてみよう。大丈夫。きっと、きっとなんとかなる……。大丈夫。
神凪に言われた呪文を思い出して、口に出した。
「メタモルフォーゼ!」
そう唱えた瞬間、私の体は白い光に包まれ、長く伸びた髪やフリルが沢山ついたドレスっぽい衣装を着ていた。大きな萌え袖や頭に乗っかったティアラを見ると、何となく、おばけや姫の印象を与える。
「中々似合っているじゃない。じゃあ……いくわよ!」
神凪は走りながら「メタモルフォーゼ」と唱え、私が初めて見た魔法少女の姿になり、大きく跳躍した。慌てて私も後を追いかけ、跳躍した。私はただの人間だから、こんなにジャンプできるとは思っていなかったけど、神凪と同じくらいとべていた。そのまま、スティグマにステッキをぶち当ててみた。すると、簡単にスティグマは倒れた。もう一体……!と思い、周りを見ると、殆どを神凪が既に倒していた。
「大まかには終わったかしら」
「……そ、そうみたいですね」
……神凪強すぎぃ…
ー
「あの……倒れていた人達はどうなるんですか?」
変身解いて、私はおずおずと聞いた。
「心が食べられていない人はいつも通りの日常に、心が食べられた人は……」
「人は……?」
とても含みを持たせる神凪は悲しい目をしていた。
「…………鬱病になるわ」
「……!」
思い出した。ニュースで言っていたし、最初に神凪も言っていたではないか。落ち込む私を見て、神凪は続けた。
「……でも、今回は誰もスティグマに心を食べられていなかったわ」
「…………!という事は……誰も鬱病になっていないって事ですよね!」
急に元気になる私を見て、神凪は微笑んだ。
「後処理は他の子がやってくれるわ。私達はオフィスに戻るわよ」
神凪はステッキに乗った。私も慌てて後ろに乗り込む。ふわっとステッキは浮き、オフィスに向かって飛び出した。
ー
「へぇー。戦い方も教えてない初陣なのに、凄いねー」
ねむねむとした顔の朔夜は首を色んな方向に揺らしながら掠れた声で言った。完全に眠る前だ!
……………………因みに、オフィスに帰って5分後の出来事だ。
「新人を労う気持ちがうちのリーダーには無いみたいよ。途羽、私以外の魔法少女に会いに行きましょう。今なら仕事を終えて、休憩室に居るはずだから」
「……あっ、はい!」
私は、朔夜を置いて、3階から1階へと向かった。
「ぐー」
エレベーターに向かう途中、大きないびきが部屋から聞こえてきたのは私の予想があっていたことの答え合わせをしているようだった。本当に眠る前だったんだぁ…
ー
神凪は魔法少女、魔法少年休憩室の扉をノックした。
「はぁいー!入っていいよぉ!」
おっとりしているけど、明るい印象がある声がした。
「入るわよ」
そう言って、神凪は休憩室の扉を開けた。
「やっほー。神凪」
金色の髪をお団子にまとめたキラキラした印象の女の子がスマホをいじって椅子に座っていた。
うーん……この顔…聞いた事あるな…誰だったけ?
「久しぶりね。華光」
「ん……?華光……?」
私は華光と呼ばれた女の子を見る。可愛らしく手を降っている。近くのテレビにとある映像が流れてきた。アイドル衣装を着て歌って踊るアイドル、かこーの映像だ。かこー。綺麗な金髪と愛想の良さが売りの今人気のアイドルだ。私はかこーの映像と華光を交互に見る。…………まさか……
「…………かこー……?」
いや、違うと言って欲しい……危険な化け物と戦う魔法少女……その1人が大人気アイドルだとか、誰が信じられるだろうか。その時、華光が爆弾を投下した。
「ん?僕だよ?かこー」
「わーーーーーーーーーーーーーーー……」
叫びより、意味わかんない声が出てしまった。
「僕、かこーこと月城 華光!よろしくねぇ」
朗らかに笑って手を振る私。うわー……まじだったかぁ……………………あれ?ギャップ萌…………?
ー
「私、九十九 途羽です!魔法少女…………になる前の人です」
「あはは、そうかぁ。神凪の勧誘?」
「いや、なりたいって言ってきたのよ。凄いわよね」
壁に体を寄せ、腕を組みながら言う神凪の言葉にうんうんと華光は頷いた。
「……えっと、凄い、事、なんですか……?」
「勿論!魔法少女、魔法少年になりたい!ってここに来た子の人数は計り知れず。スカウト以外で魔法少女の素質を認められた子は君が初めてだよぉ」
華光はくすくすと笑った。
「でー?僕の所に何しにきたのぉ?」
華光が首を傾げる。神凪が口を開いた。
「正式に途羽を活躍させる為に衣装とステッキの登録をしようと思ってね。貴女はセンスが良いから呼びに来たって訳よ。あと、途羽と会わせる為ね」
神凪がそう言うと、急に華光は立ち上がった。
「いいねぇ!楽しそうじゃん!協力するよぉ!」
急にイキイキし始めたな……
華光は神凪の手を握って、ブンブンと降っていた。
ー
「はーい、採寸するよ」
2階の衣装作りのオフィスで働く女性にウエストを測ってもらう。色々測ってもらって、私は解放された。
「途羽ちゃん、どんなデザインにするのぉ?」
華光が私が仮で使っていたステッキを持って言った。
「……実は、採寸して貰って悪いんですけど、衣装は、その仮ステッキに入っていたあの衣装が良いんです」
華光にそう伝えると、ふんふんと話を聞いてくれた。実は、初めて変身した時、思った以上にデザインを気に入ってしまったのだ!
「だったら、手直しして、新しいステッキに変えればいいんだよぉ!」
天才でしょぉ!ときゃるんと華光は笑った。近くの棚から鉛筆と紙を持ってくると、そこにシャッシャと何かを書き始めた。できた!とと言って華光はスケッチを見せてくれた。水色のハート型の石が嵌められた銀色のステッキだった。
「可愛い」
「でしょでしょ!これを1回、リーダーくんに見てもらって、手先が器用なうちのオフィスの子に加工して作ってもらって、仮ステッキから衣装のデータを取り出して、手直しして、できたステッキにデータを入れれば完成だよぉ!」
どうやら、華光のアイドル人脈で、ステッキを作っている間に、衣装の手直しを終わらせられるようにしたらしい。すごいなアイドル人脈。手直しはオフィス外の職人がやったとか……
――そして1週間後、私のステッキと衣装が出来上がった