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I・イヴ  作者: 問⁴
3/5

ⅲ 契約

「家とかは私が手配するから安心して。あなた面白いコだから、お小遣いもつけとくわ。」

「あ、ありがとうございます。」

 これは馬鹿にされてるのか?それとも褒めてるのか?どっちにせよ少し恥ずかしい。

 私はそんな思いを抑えて、静かに苦笑いした。

「そうだ、元の世界には一応戻れるけど、戻る?」

「…いや、たぶん戻っても居場所ないんでいいです。」

 さっきの本の内容からして、戻ったら父に殺される気がする。せっかく記憶がなくなる前の私が頑張って逃げたんだから、そんなのはごめんだ。

 ふとカウンターの向こうを見ると、ルークさんが私の目をじっと見つめていた。あまりにもじっと見つめてくるため、なにか問題があったのか聞くことにした。

「あの、なんか私変ですか?」

「いやぁ、その目どうしたのかなって。」

「たぶんアルビノじゃないですか?髪も白いし。」

「いや、それ『契約』だね。」

「えっ?」

 私の目がなにと契約したのだろう。契約といえば不動産とか株とかじゃないのか?それともまた別の新しい単語?

 私は訳がわからず頭がこんがらがる。

 そんなとき、あの片猫耳の子供が入り口から顔を出して言った。

「契約っていうのは個々の超能力を得ること。目の色で契約内容がざっくりわかるの。オネーサンは人魚の家系なんでしょ?それなら親から契約が継承されてるはず。髪が白いのも人魚だからだよ。」

 まぁ手慣れている説明の仕方で、若干イラつくまである。だが、分からなかったことを教えてくれたのはありがたかった。

「ありがとー。私四分の一魚だったんだね。」

「ちなみに今のところの契約の種類は

『赤系統 血肉との契約』

『橙系統 自分との契約』

『黄系統 幸せとの契約』

『茶系統 人間との契約』

『桃系統 食べ物との契約』

『紫系統 不幸との契約』

『青系統 神との契約』

『薄荷系統 海との契約』

『緑系統 無機物との契約』

『黒系統 絶望との契約』

『白系統 希望との契約』

『複数系統 バグとの契約』

となってるわね。だから薄荷色のあなたは海との契約よ。」

「じゃあルークさんは希望と契約したんだね。」

「えぇ、天使だもの。」

 ルークさんの白く輝く瞳に映すものは、全てが綺麗に見える。まさに希望の権化だ。希望と契約したという話にも納得がいく。

「あなたが契約済みなの、ちょっと残念ね。」

 どこか寂しげな表情で彼女は言った。

「あぁ、魔法少汝の件ね」

 片猫耳の子供が、そう言いながら隣に来る。なんだこいつ、暇してるのか?

 というか、魔法少女ってあのキラキラふわふわのことを言ってるのだろうか。そんなのは存在しないはずじゃ…

「あっ、説明してなかったわね。魔法少汝っていうのは、この世界に来た人間が神様と契約し、なることを義務付かれてる役職よ。」

「じゃあ、私もなるんですか?」

 少しワクワクしている自分がいる。魔法少女なんて、アニメでしか見たことがないから、それに私がなれるなんて嬉しいったらありゃしない。キラキラふわふわに変身して、悪を倒す。私の頭はいろんな妄想でいっぱいになってしまった。

「いいえ、あなたは海と契約してるから無理ね。」

 スパッと両断される私の妄想たち。どうやら別世界に来ても人生、そう上手くは行かないらしい。なんだか現実を突きつけられた気がして、少し悲しくなった。

「魔法少汝三分の二、入院中なのに大丈夫なの?今補充しとかないで。海の契約くらい剥がせるじゃん。」

 片猫耳が私の心の声に、意図せず加勢する。

(いいぞ知らんガキンチョ!そのまま押し切れ!)

 流石に自分の口から言うのは恥ずかしいので、心の中で応援する。私は魔法少汝になりたいんだ!

「剥がしたら海が怒ってしばらく魚釣れなくなるわよ」

「そ、それはやだ…」

 結局そのあと、片猫耳が押し負け、私は海の契約のままになった。割と結構悲しい。まぁ、目の色気に入ってるし、妥協する事にする。

「そういえば、魔法少汝ってなにと戦うんですか?」

 私はふと思う。魔法少汝がいるってことは、戦いがこの世界ではあるということだ。では、何と戦っているんだろう。

「『まじゃまじゃ』っていう知恵らしい感情から生まれる神食植物よ。神様との契約時にもらえる『火のコ』っていう精霊を操って焼き倒すの。」

「そうとう放置しない限りただの植物だから。俺は自分で対処してる。」

「あ〜、またそうやって根っこ残して再発させるんでしょう?早く焼き切ってもらいなさい。」

「はぁ〜い」

 片猫耳がめんどくさげに返事をする。

 まぁ、つまり魔法少汝はまじゃまじゃを倒すってことなのだろう。

 なかなか会話に入れないせいで、独特な孤独感を感じる。これがさっき言っていた『知恵らしい感情』っていうやつなのだろうか。もしそうなら、まじゃまじゃの出現度は高そうだ。

「さて、こんなもんでいいかしら。あっ、ナイくんあとは頼んだわ。家も隣にしておいたから。」

「は?」

 ナイくんとは、片猫耳のことだろうか。すごい顔でルークさんを睨んでいるからたぶん間違いないだろう。

 ナイくんが席を立ったので、私もつられて席を立つ。ナイくんの後をついていけば家がわかるはずだ。

「い、色々ありがとうございました。」

 私は深々と頭を下げる。

「いいえ〜。何かあったらまた来てね。」

 私はルークさんに手を振り、先に行こうとしていたナイくんの背中を追った。

 外はもう暗くなっていて、星が輝いていた。

 少し行ったあたりで、ナイくんの足が止まる。すると、急に振り返り言った。

「夕方、あの木に引っ張られたでしょ。」

「う、うん。」

「あの木、寿命と引き換えに願いをかなえるんだけど、夕方は対価なしに寿命を吸うから、あんま近づかないほうがいいよ。あと、ここはあの木のせいで時間の経過が半分。つまり1年で2年経つの。人間はすぐ死ぬから、覚悟しといてね。」

「…わかった。」

 ここにきてから数時間。改めて現実とは違うのだと思う。

 私は人間だから、すぐに死ぬらしい。人間だから…

「君はなになの?猫耳が生えてるけど」

「俺?そうだなぁ…化け猫とでも名乗っておくか」

 ナイくんは、そう言ってニヤッと笑い、また歩きだす。私は何故か違和感を感じたが、何もなかったことにして後を追った。

 少し歩くと、橙色の屋根の家と、船に吹き流しがくっついたようなものが見えてきた。

 橙色の方はたぶんナイくんの家だ。だって目が橙色だから。

 じゃあ、あのよくわからないのが私の家?

「そうだよ。」

 ナイくんが私の心の声に反応を示す。

「え、なんで…声に出してないのに?」

「…ここは変な場所だからさ、たまーに流れてくるの、未来のこととか心のこととかが。」 

 流れてくる?頭に?つまり予知とか心読みとかができるってこと?

「流れてくるって…どんな感じよ。」

「うーん、いつかわかるよ!」

 私は適当にあしらわれ、この話は終わった。やっぱりここは変な場所だ。基本的には現実と変わらないんだろうけど、何かがおかしい。住めば慣れるものなのだろうか。

「慣れる慣れる。面白いから」

 ナイくんがまた心読みしてくる。

 あー、私もこのクソガキの心読みしたいなぁ。

「じゃあ、俺こっちだから。明日俺買い出し行くし、ついでについてきてね。じゃーおやすみ〜。」

 そう言って、そそくさと家に入っていく。別に私の家の説明くらいしてくれてもいいのに。

 私は軽くナイくんに手を振り、私も家に向かう。

 改めて近くで見ると、少し船感が増した。真ん中の吹き流しを支えるようにして飾られている大量のライト。船の先についている装飾。吹き流しのてっぺんについているプロペラ。少なくとも現実では見たこと無い船。

 空でも飛ぶのかななんて思いながら、私は船によじ登った。

 登って最初に見えたのは、操縦席とキッチン。どちらも外にさらされていて、雨が降ったら使えなさそうだ。

 吹き流しの中に入ると、ベッドが4つと机が一つ。ベッドは触ってみると、とてもふかふかで手が見えなくなった。

 こんなベッド、貴族の家でしか見たことがない。サイズは少し小さいけど、すてきなベッドだ。

 よく机を見ると、小さな紙切れが置いてあった。

「なんだこれ」

 手にとって見てみると、こんな事が書いてあった。

『どうかしらこの家。もう動かなくなった飛行船なの。机の下にお小遣い置いといたから、好きに使っていいわよ。これからよろしくねぇ byルーク』

「へぇ…やっぱ飛ぶんだこの船」

 細い線と太い線の緩急が目立つ筆跡。ラメではない何かが輝くインク。その全てからルークさんが天使であることを再認識させられる。

「綺麗だなぁ…」

 私は机の下を覗き、パンパンの小銭が入った袋を確認し、一つ出してみる。

 小銭の形は瓶の蓋などに使われている王冠に似ていた。少し表面がザラザラしていて、何より結構重い。色も金色だから、純金でできていそうだ。

「じゃあ、これ結構な額じゃな…」

 そこまで言ったところで、疲れがどっと私を襲い、身体が重くなりベッドに倒れた。

「今日はつかれたな…」

 起きたら変な場所にいて、記憶をなくして、木に殺されかけて、助けてもらって、私を知って、新しい名前をつけて…

 そういえばまだ病衣のままだし、髪もボサボサ、靴もないし、お風呂にも入ってない。新しくここに来たなら、みんなに挨拶しないと。それにお小遣いもすぐ無くなるだろうから就活もしなきゃなのか。十六歳の仕事…風俗くらいしかないかな…

「あしたは…色々しなきゃ…」

 そうして、私は家に来てから早々と寝てしまった。


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