第六話 鬼人との戦い
サクラとカイトが村に着いた時、目に飛び込んできたのは、血溜まりの上に残されている、首を切り落とされた村人たちの遺体だった。
「首を切り落とすだなんて、酷えことをしやがる……」
「お前たちがやったんだな? 絶対に許さない!」
村の奥にいるオーガたちを見つけた二人は、彼女たちを睨みつける。
「あらあら、子供がまだ二人残っていたのね」
「え、やば。女の子の方、マジでかわいいんだけど。私、この子をもらってもいい?」
パメラがうれしそうにジルに確認する。
「他の子供たちはすでに空間転移の魔法で施設に移動させちゃったからね。すでにノルマは達成してるし、いいんじゃない?」
「やったー。それじゃ、この子は私がもらうからねー」
そのやりとりを聞いたサクラは激昂した。
「お前たちは人の命をなんだと思っているんだ! 絶対に許さない! 今ここで、私がお前らを殺してやる!」
「俺も同じだ。お前たちは絶対に許さねえ!」
サクラとカイトは素早く戦闘態勢に入る。
「あなたたち、随分と殺気立ってるじゃない? せっかくのかわいい顔が、台無しよ」
「黙れ! 忍法、業火龍の術!」
サクラは素早く両手で印を結び、右手をオーガたちに突き出す。彼女の手のひらから、渦を巻いた炎が出現する。その炎の渦が徐々に龍の形となり、三人を襲う。
だが、オーガたちはこの炎を避けようとしない。炎は龍の形を保ったまま、三人に直撃した。しかし、彼女たちは何事も無かったかのように涼しい顔をしている。
「バカな。あれだけの炎を喰らって、無事でいるだと?」
「驚いた。魔法が使えるなんてやるじゃない、あなた。でも残念ねえ。私たち、魔法を無効化できるから、そんな魔法、全然効かないわよ。あ、この世界じゃあ、ニンジュツっていう、別の呼び名があるんだっけ? まあ、そんなことはどうでもいいけど、魔法が効かない以上、あなたたちに勝ち目はないわよ。どうする? 無駄だろうけど、私たちから逃げてみる?」
パメラが巨体を揺らしながら、くすくすと笑っている。
(魔法を無効化できるっていうのは言い過ぎだ。おそらくハッタリに違いない。でも、私の忍術が通用していないのは事実。おそらく、こいつらの体内にある魔力の量が多くて、それで、私の忍術に対する耐性が高まっているのだろう。それならば、体術で対抗するしかない。しかし――)
三人は、戦闘モードになると全身の細胞が活性化して、体内の魔力が跳ね上がる特性を持っていた。
「うふふ、私たち、こんな見た目だけど、実は魔法も得意なの。お返しに、私の魔法も見せてあげる」
パメラは右手をサクラに向けて、禍々しい黒いオーラを纏った閃光魔法を放つ。
閃光魔法は、途中で無数の黒い光に分裂して、攻撃を回避するサクラをどこまでも追尾していく。
「ふふ、逃げ惑う姿もかわいいわねえ。まあ、回避したところで私の魔法はどこまでも追い続けるからいずれ当たるんだけど。そうねえ、今すぐ私たちにごめんなさいするなら、特別にその坊やは許してあげてもいいわよ? 私はあなたがいれば、それでいいからね」
残りの二人も、魔法攻撃を回避するサクラを圧倒的な速さで追撃する。
(あの大きな身体でここまで速く動けるとは……。やはり、体術で対抗するのは難しそうだ……。どうする?)
サクラは自分の両足に体内のチャクラを集中させて、自身の限界まで移動速度を強化していた。二人のオーガは、そんなサクラの速度に追いついてきている。
「サクラ、援護するぜ!」
カイトが素早く二人のオーガをからくりの矢で狙い撃つ。しかし、彼女たちは一瞬で身体をそらし、ギリギリのところで矢をかわした。
「へえ、急所を正確に狙ってくる。坊や、やるじゃない!」
「ほんと、反応がもう少し遅れてたら私たちやられてたわ」
「やっぱり、この子よりも、坊やから先に倒した方が良さそうね。その矢で狙い撃ちされたら厄介だ」
ジルたちは標的をカイトに変更して、まっすぐ彼に向かってくる。カイトは二人に気を集中させながら、丸盾を前方に身構える。
「あはは。そんなちっぽけな盾じゃあ、私たちの攻撃には耐えられないよお!」
二人は拳に魔力を込めてカイトに殴りかかる。次の瞬間──。
「サクラっ! 目を閉じて耳を塞げ!」
カイトは素早くかばんから爆弾のようなものを取り出し、二人の方へと投げつける。すぐに爆弾は爆発して、大きな音とまばゆい光が周囲に広がった。
「ぐぅっ、目が……」
完全に不意をつかれたオーガたちは、目を瞑りながら両手で耳を押さえている。あらかじめ目と耳を塞いでいたカイトは素早く体制を立て直すと、からくりの弓から連続で矢を射って、二人の急所である首を撃ち抜いた。
「ぐぅ……」
首を撃ち抜かれた二人のオーガは、そのまま後ろへ倒れ込んで、動かなくなった。
「忍術は無効化できても、閃光弾の光と音は無効化できなかったようだな! 俺だって、やる時はやるんだってばよ!」
「よくも、私の姉さんたちをやったわね……。許さねえぞてめええええ!」
激昂したパメラが全身を魔力で強化してカイトに襲いかかる。しかし、閃光弾の光で眩んだ目がまだ完全に回復していないのか、彼女の攻撃はカイトを捉えきれていない。カイトは丸盾を使ってうまくパメラの攻撃を弾いている。
「へへ、目がまだ見えてないみてえだな。当たらなければ、どうってことないぜ!」
「よくやったカイト。あとは私に任せろ。忍法、舞揚羽の術!」
サクラは素早くカイトの身体を掴むと、舞揚羽の術で空へと飛び上がる。
「魔力で空に飛んだか? だが、それがどうしたあああ!」
まだ目が眩んでいるパメラは、上空に浮かんだ二人の姿を視認することができない。
サクラは空から起爆札のついたクナイを投げつける。
「そこかあ!」
パメラは飛んできたクナイを腕で払い除けようとする。
しかし、一時的に視力が落ちていたパメラは、クナイに起爆札が付けられていたことに気づかなかった。パメラが伸ばした左腕の近くで起爆札が爆発して、彼女の腕が吹き飛んだ。
「ぐああああ! な、何が起こった?」
「村人たちを殺した報いだ。お前はここで死ね!」
サクラはその隙を逃さず、パメラの首めがけてクナイを投げつけて、トドメを刺した。首にクナイが直撃した彼女は血飛沫をあげながら地面へと倒れ込んで、動かなくなった。
「私はまた、村を救えなかった――」
地面に降り立ったサクラは天を見上げて涙を流した。カイトはそんなサクラの肩を叩く。
「サクラ、もう泣くのは止めにしよう。今の俺たちには、やらなくちゃならないことがある。拐われた子供たちも助けださないといけない。俺たちが泣くのは全てを終わらせてからだ」
「――そうだな。ありがとうカイト」
サクラはカイトの手を握って、改めて異界の侵略者たちに復讐することを誓った。