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第三話 蜘蛛女のアリア

「へえ、無傷でこの魔導騎士たちを倒すとは。やるじゃないの、お嬢さんたち」


 突然、背後から艶めかしい女性の声が聞こえた。

 振り返ると、そこには異様な存在がいた。


 美しい女性の上半身を持ちながら、蜘蛛の下半身に八本の蜘蛛足を備えた異形の人物。一目で、先ほどの魔導騎士たちとは違うとわかる。


「魔物化したその姿、お前は魔族だな。まさか、魔族たちまで侵略に参加しているとは――」


「これは驚いた。私たちの言葉を理解できるとはねえ。この世界にも翻訳魔法を使える人間がいるとは思わなかったわ」


「勘違いするな。これは魔法ではない。忍術だ」


「ニンジュツ? ああ、なるほど。あなたたちは魔法をそう読んでいるのね。それはそうと、あなた、何故か知らないけど、私たちのことをよく知っているみたいねえ。でも残念。私はアリア。魔族じゃなくて、元人間よ。私の姿を魔族と勘違いするってことは、あの忌まわしい事故の前のことまでしか知らないようね?」


「事故だと?」


「あー、やっぱり魔道炉の事故のことは知らないのねえ。それじゃあ教えてあげる。今の私たちの世界に、あなたの知る人間はもう存在しないわ。みんな身体が魔物になってしまったからねえ。鎧を着てるから目立たないけど、あの魔導騎士たちも、鎧の中にある身体は魔物化しているよ」


「人間が存在しない?」


 サクラは、全く想定していなかった返答に驚きを隠せない。


「そうよ。事故で壊れた魔道炉から放出された魔素に身体が汚染されて、みんな魔物化してしまったの。だから、私たちは、まだ汚染されていないこの世界に来たのよ」


「ふざけるな! そんな理由でこの国の人たちを殺したというのか!」


 アリアの返答に怒りが爆発したサクラは声を荒げる。


「あらあら、随分な言いようねえ。先に私たちをバケモノ扱いして攻撃してきたのはあなたたちの方なのに」


「黙れ! お前たちがこなければ、私の家族は死なずに済んだんだ! お前はここで殺してやる!」


 怒りが止まらないサクラは腰袋からクナイを素早く取り出し、チャクラを流し込む。サクラのチャクラに反応したクナイが虹色に輝き出した。


「うーん、頭に血が上っちゃったかあ……。あなたかわいいから、魔素を流し込んで私の仲間にしてあげようと思ったんだけど、仕方ないわねえ……」


 アリアが話終わらないうちに、サクラはチャクラを纏わせたクナイを彼女に向けて投げつける。サクラのチャクラを帯びたクナイは、虹色の軌跡を描きながら、アリアに向かってまっすぐに飛んでいく。アリアは素早く反応するが、飛んでくるクナイをかわしきれず、クナイは彼女の大きな腹を掠めて体表に傷をつけた。


「もう、痛いじゃないのー。でも、今のはいい攻撃だったわよ。迷いが全く感じられなかったから、反応したけどかわしきれなかったわ。ああん、もう。そんな目で見つめられたら私、ゾクゾクしちゃう」


 アリアは恍惚の表情を浮かべながら、自身の腹から出ている血を手で拭って舐めている。


「はぁん。もう、我慢できないよ。もったいないけど、これからあなたのこと、壊しちゃうからねえええ!」


 彼女は素早くサクラに近づくと、蜘蛛足の先の爪を振りかぶって襲いかかってきた。


 サクラは軽やかに斜め後ろにステップを踏んで爪をかわし、後方にある木を全力で蹴って素早く方向転換して、アリアの背後を取った。


「背後を取った! これで終わりだ!」


 サクラは、右手に握りしめたクナイを振りかぶる。

 しかし――。


「ふふ、読んでたわよん」


 アリアは自身の尻から、蜘蛛糸を素早くサクラに放出した。


「しまった!」


 完全に不意打ちとなったアリアの攻撃をかわしきることができずに、蜘蛛の糸がサクラの全身に絡みついてしまう。彼女がもがけばもがくほど、糸は全身に複雑に絡まっていく。


「あはは、捕まえた。これでもうあなたは逃げられない」


 勝利を確信したアリアは手を身体を仰け反らせながら高笑いする。


「姉ちゃん、大丈夫か? 今助けるってばよ!」


「遅いわよ、坊や!」


 からくりの弓を持った少年が矢をアリアに向ける。しかし、彼女の方が速く反応して、彼の身体にも蜘蛛の糸を放出して、絡みつけた。


「もう、せっかくいいところなんだから、邪魔しないでよ。あなたは後でゆっくりと相手をしてあげるから。私、せっかちな子は嫌いよ」


「ちくしょう! こんな糸がなんだ! 振り解いてやる!」


 蜘蛛の糸に絡まった少年は激しくもがいているが、動くことが出来ないでいる。アリアはそんな彼には興味がないのか、必死にもがくサクラの方を見つめている。


「うふふ。私の糸の中でもがいているあなたの姿、いいわあ。やっぱり、すぐに殺すのはもったいないわね。そうだ、私の子を腹の中に産み付けて、育ててもらおうかな」


 アリアは腹から子蜘蛛を産み出すと、自身の手の上に乗せた。


「うふふ、見て。かわいいでしょう? これからこの子をあなたの腹の中に……な、口がうごか……な」


 突然、アリアの身体が動かなくなる。


「――ようやく毒が効いてきたようだな」


「から……だもうごか……」


「お前の腹を切り裂いたクナイには、猛毒を塗っておいたんだ。蜘蛛女、ペラペラと喋って油断していたのが仇となったな。私の攻撃を喰らった時点で、お前の負けは確定していたんだよ!」


「そ……んな……」


「忍法、鳳仙火の術」


 サクラは指先から炎を出して、アリアの糸を燃やす。


 絡みつく蜘蛛の糸から解放されて動けるようになったサクラはクナイを素早くアリアに投げつける。真っ直ぐに飛んだクナイは彼女の首にしっかりと突き刺さった。


「そのクナイには起爆札をつけておいた。子蜘蛛ごと、あの世へ行くんだな」


 バァン。


 クナイに括り付けられた起爆札が爆発して、アリアと子蜘蛛の身体は跡形もなく吹き飛んだ。


 アリアを倒したサクラは息を整えながら、戦場を見渡した。だが、すでに村は炎に包まれていた。


「敵は倒せた。しかし――」


 サクラは悔しさで気持ちがいっぱいになる。


「私は、村を救えなかった――」


 サクラは涙を堪えながら空を見上げた。上空にあるあの門が閉じない限り、これからも無数の敵がこの地に押し寄せてくるという現実を、サクラはあらためて思い知らされた。

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