第十話 本気を出したレイカ
人造人間たちを倒した三人は、広間の奥にある扉の前に到達した。
「この扉の向こうが、敵の本拠地のようね」
「とりあえず、息を整えてから、中に入ろう」
「待て、中から誰かが来るぞ!」
急に扉が開いて、中から二人の女性が出てくる。その前に、三人は扉から十分に離れて、警戒体勢を取っていた。
「私たちの作った警備兵を倒すとは、なかなかやるわね。でも、この先に行かせるわけにはいかない」
「このまま、何もせずに帰るつもりはないだろう? それでは、君たちにはここで死んでもらうしかないな」
赤いショートヘアと、緑色のロングヘアの二人の女性は、今までの異界の人物たちとは違い、ほとんど身体が人間に近い。だが、彼女たちの頭には猫のような耳が生えていて、お尻からは尻尾が生えている。
(魔力が体内から溢れ出ている。この猫人間たちは間違いなく、さっきの二人よりもずっと強い……)
「彼らは手強そうだ。君たちは下がっていてくれ。今度は私が戦おう」
二人の後ろに下がって様子を見ていたレイカが前に出てくる。
「しかし――」
「先ほどの戦い、見事だったよ。私が時間を稼ぐから、君たちはその間に呼吸を整えて、身体を休めておいてくれ。加勢するのは、君たちの体調が万全になってからでいい」
「あなた一人で私たち二人を相手にするつもりなの?」
緑髪の女性が半分呆れたような顔をしながら、レイカに話しかける。
「ああ。二人同時に相手をしてやるよ」
「ずいぶんと自信があるようね。それなら、あなたがどれだけ強いのか、試してあげるわ」
二人の女性は、ジーナとバーバラ。ジーナはかつて異界で赤い流星と呼ばれていたほどの凄腕冒険者で、高い戦闘能力を持っている。バーバラも異界一の魔法学院を首席で卒業した、魔法使いのエリートだ。
ジーナが一気に距離を詰めて、レイカの首めがけて短剣を突き出す。この動きを読んでいたレイカは流れるような動きで横に動き、攻撃をかわす。同時に、レイカがジーナの足を払う。しかし、彼女も素早く足を下げてこれを回避すると、体勢を立て直すために素早く後ろに下がった。
「二人とも、なんで速さだ。私が全力でチャクラを集中させても、ここまでは動けないぞ!」
レイカとジーナは目にも止まらない速さで攻撃し合っている。相手の攻撃が読めるのか、互いに攻撃を回避しているため、ダメージを与えられずにいる。
「ジーナ、援護するわ。いいわね?」
「バーバラ、頼んだ。多分この人、私よりずっと強い」
「オーケー。それでも、私たちが二人で戦えば、倒せない相手なんていない。いくよ、ジーナ」
バーバラは自分の周囲に無数の光球を作り出す。光に照らされた彼女の緑色の髪が、キラキラと輝いている。
「これ全部、私が操作して確実にあなたにぶつけてあげる。あなたがどんなに速くても、複数の方向からの攻撃はかわせないでしょう?」
レイカとジーナの周囲を、無数の光球が覆い尽くす。
「この光球はバーバラが正確にコントロールしてくれるの。だから、光球が飛んでいる中でも、私はあなたを攻撃できる」
ジーナはレイカを短剣で攻撃する。その動きに合わせて、バーバラがコントロールする光球がレイカを襲う。レイカはこれを冷静に受け流している。だが、バーバラがコントロールする光球の数が増えていくと、レイカは攻撃をかわしきれなくなる。
「さすがにこの数では、回避するにも限界があるか……」
ジーナの短剣と、バーバラの光球が、レイカの身体に当たる寸前――。
突然、レイカの身体が消失した。
「何、消えただと!?」
ジーナたちは、目の前で起きた光景に驚いている。
次の瞬間、レイカはバーバラの背後に現れて、彼女の首を腕で締め上げる。すぐに彼女は意識を失い、その場で倒れ込んだ。
「安心しろ。意識を失わせただけだ。お前たちには色々と聞きたいことがあるからな」
「くっ! よくもバーバラを……えっ!」
ジーナがレイカと目が合った瞬間、彼女の身体はまるで凍りついたかのように動かなくなった。
「こうもあっさりと私の金縛りの術に引っかかるとは。仲間を倒されて、よほど心が乱れたと見える――」
ジーナはレイカから凍てつくような殺気を当てられて、恐怖で全身が震えている。
「さて、お前たちには、異界の連中のことをたっぷりと話してもらう。それまでは生かしておいてやるよ」




