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フラグクラッシャーガール

掲載日:2010/03/13

 『いじめ』


 いじめ、それは昔から存在しこれからも社会問題として存在し続けるであろう難題です。どうすればこの難題を解決できるのか。その具体的な答えなど存在しません。もし答えを出せるのだとしたら、それは――。


 桜の咲き乱れる季節、春。私は春が嫌いだ。新しい出来事の始まりの季節だからだ。

「ねぇ君、席隣同士だしこれから宜しくね」

 高校二年生になり新学期が始まった。新しいクラスメートの子が早速私に話し掛けてきた。私がどんな子かも知らずに。

「よ……お……い……くで……う」

「え?」

 私は自分が口が聞けない子だという事を知られたくなくて、必死に声を出した。しかし、発せられた言葉は通常のモノではなかった。せっかく話し掛けてくれた子の顔を見ると心がきつく締められた。彼女は奇異なモノでも見るような眼差しで私を見ていた。

「……ちょっと美智子、その子は喋れないんだよ。話し掛けるのはやめておきなよ」

 私に話し掛けてくれた子に別の女の子が言う。

「う、うん」

 こうして私の素性が知られ、みんなが私を避けて離れていく。それだけならまだ良い。

「おい、お前!」

 男子が私を呼ぶ。

「あ……ん……でう、あ」

 ずっと机に向けていた視線を男子に向ける。男子は一人ではなく二人だった。あー、きっとまた……。

「ぶはははは! 聞いたかよお前ら、超ウケね?」

「あーウケる。『あんでうあ』って何!? 新語かよ!」

 二人の男子が私の予想した通りに私を馬鹿にして笑っている。私は視線を机に戻す。もう慣れた……なんて負け惜しみでしかない。こんな苦痛に慣れる事なんて出来ない。

「おいおい、無視かよ! 性格悪いねーお前」

「会話の途中だろー。こっち向けよ!」

 二人の言葉に周囲からクスクスと笑い声が聞えてくる。最早ここに私の逃げ場はない。私は泣きそうな面をしているだろう顔を上げて、二人の男子に視線を向けた。

「ぷっ! 何その泣きっ面。不細工すぎ!」

「不細工な顔をこっちに向けんな!」

 それで教室中は笑いに溢れる。教室中が私という一人の敵を作り出し、一致団結する。都合良く私を助けてくれる人なんていない。

「あれー? またいじめられちゃってるんだー。ほんと何処行っても嫌われ者だねー」

 一年の時の同級生達が興味半分で私のクラスを覗きに来て、そんな事を言って来た。みんな楽しそうに笑っている。私はただただ黙って耐える事しか出来なかった。


 ただ苦痛のみの時間をただ黙って過ごし、新学期最初の日は終わった。今日は言葉だけだったけれど、これからきっとエスカレートして行くだろう。それを考えるとすごく鬱になる。でもお母さんやお父さんに心配はかけたくない。だから登校拒否だけは絶対にしない。どんなに辛くても逃げるのだけは嫌だった。

「おい、そこのクソガキ」

 家への帰り道、突然誰かに声を掛けられた。私が地面から視線を声の聞えた方向へ向けると、金髪が目立つ男が道端に腰を降ろして座っていた。ジャニーズ系の今時の青年といった感じだ。私は一旦立ち止まり、関わらない方が良いと判断し再び歩き出した。

「無視すんな、クソガキ! 殺すぞ!」

「……っ!」

 怖い……。こういう人は言う通りにしないと何されるかわからない。私は足を止めて恐る恐る振り向いた。と、すぐ目の前にその男は立っていた。

「お前学校でいじめられてんだろ?」

 何の脈絡もなく突然男はそう言い出した。私はあまりに突然の言葉に呆然とする。何故そんな事を知っているのか。この人は一体何者なのか。

「応えろ。いじめられてんだろ?」

「……あ……い」

「声が出ないんだな?」

「……あ……い」

「よし、良い子だ」

「え……う……?」


 男の人は私の頭を乱暴にくしゃくしゃと撫でた後、私に一粒のカプセルを差し出して来た。

「飲め」

「……うぅ」

 そんな、知らない人に訳もわからない薬のようなモノを渡されて飲むなんて、出来る訳がない。

「安心しろ、飲め」

 うぅ……すごく無茶な事を言って来る。

「あーっ! めんどくさい奴だな! 飲ませてやるよっ、ほら!」

「うぅっ!」

 私は無理やり口を開かされて男の人に怪しいカプセルを飲まされた。……酷い。

「じゃーな、後はお前次第だ」

 男は私に薬を飲ませると満足したのか去っていった。もしも、毒とかだったらどうしよう……。


――翌日。


 今日もまた辛い一日が始まる。学校に行きたくないけれど、行かなければお母さんやお父さんに心配をかけてしまう。だから私は笑顔の仮面で毎朝学校へと向かう。


 学校へ到着すると、またいじめが始まる。

男子がわざとらしく私に挨拶してくる。

「おはようー!」

 けれど私は挨拶を返す事が出来ない。ヘタに声を出そうとすると、またからかわれる。だから私は沈黙する事に決めた。けれど

「ちょっと、賢君が挨拶してくれてるんだから、なんとかいいなさいよ!」

 クラスの女子が私が喋れない事を知っていながら言う。それを皮切りのほかのクラスメート達も私に批難の声を上げ始める。

「喋れないのはわかるけれど、無視はよくないんじゃない?」

「せっかく好意的に挨拶してくれたのにね」

 クラスメート達だけじゃなく、担任の先生までが

「喋れないからなんなんだ! 笑顔でみんなと仲良くできるじゃないか! お前がみんなから嫌われてるのは、喋れないからじゃない。性格が悪いからだぞ! 性格を治せ!」

 私は辛くて辛くて耳を塞いだ。もう嫌だっ! 私が何をしたって言うの。何もしていないのに。

みんな大嫌い! 嫌い嫌い嫌い嫌いっ!


 今日も辛い学校生活が終った。一体私はいつまでこの生活を続ければ良いのだろう。一生これが続くなら私は……。私の足は自然と屋上へと向かっていた。屋上の扉を開け放ち、そのまま屋上の淵まで向かう。あと一歩足を踏み出せば楽になれるところまで……、下を見ると校庭では部活動に励む生徒達。私もあんな風に青春の日々を送りたかったな……。私は足を一歩踏み出した。


 

 いじめによる自殺。それはいつの時代もなくならない、とても悲しい出来事である。いじめの解決方法とは? それは、見てみぬフリをする人間を減らす事に他ならない。しかし、ではどうやったらその人間を減らす事ができるのか。その答えは未だに出ていない。


 

 自殺した少女の葬式会場を遠くから眺める一人の男。男は吸っていた煙草をアスファルトに捨て潰すと、一言呟いた。

「あーあ、声出せるようにしてやったのに」


 完

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― 新着の感想 ―
[良い点] 内容、とても好きです [一言] 一言声を出せば この子の世界は変わったのに・・・ この物語にすごく引き込まれました 私もいじめの話書いてます 「YAMI」というタイトルです よかっ…
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