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巡礼者へ  作者: 清水
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夜蛾①

忙しくてこの分量が限界でしたので、これを①として、数話に分けようと思います(とは言っても、これまでもさしてタイトルで話の区切りをつけているわけではありませんでしたが……)

また、遠回しですが昆虫食を想起する描写がありますので、苦手な方はご注意ください。

 エルゴたちは「夜警」と呼称されるものたちに手引かれ、黒い森を抜けると、先の尖った岩山が点在する荒れ野が広がっていた。気がつけば空は分厚い雲に覆われて、その切れ目からカーテンのように光が垂れ下がり、森と同じように何もかもが黒々とした荒野に覆いかかっていた。そして、驚くべきことにこれは詩情的な比喩ではなく、エルゴが混迷とした目覚めの時木々の隙間から覗き見た光は、彼が知る光の玉から発せられるものではなく、この天から垂れ下がり大地を覆う薄い白光の膜によるものだった。エルゴを驚愕させたのはこれだけではなかった。森の外では、夜警の後方支援を担っているであろう部隊が陣地を敷いており、彼らを乗せてきたであろう車両が動物に繋げられていた。その車両は真球状で、あの粘土板と同じ原理なのか浮遊しており、それを引く輓獣は、人間の背丈ほどの体高の、蛾のような相貌であり、太く強靭な六脚と、それを覆い隠せるほどの長い毛を備え、代わりに羽は退化しかけており、もし頭部に見慣れたふさふさとした触角が無ければ、蛾というよりむしろ何らかの甲虫のように見えただろう。そして、その主人たちの一族の名を表すかのように、深い夜空のような体色をしていた。

「すごい...…!記録の通りだ、ふさふさでかわいいです!」

「かわいい……?こいつが……」

エルゴがじっとこの巨大な蛾を見つめていると、兵站の者がやってきて、蛾に何かを語りかける。するとそれに応えるように、触角を器用に八の字に動かしてみせる。兵站は頭を撫でてやりながら、飼料が入ったバケツを足元に置き、蛾は口吻をバケツに刺して、背中の小さい羽を震わせながら食べ始めた。

「……意外と」

「そうでしょう!」

エルゴとロタがこの奇妙な動物を眺めるのに夢中になっていると、支援部隊との連絡を終えたマトカイネンが近づいてきた。

「彼らは「クークラ」、我々にとっての生命線です。我が国の領内に生える植物のほとんどは我々にとって有毒ですが、彼らはこれを食べて、毛と卵を恵んでくれます。旅の方に気に入っていただけたのなら何より」

エルゴは気恥ずかしくなってそっぽを向き、ロタは触ってもいいかと目を輝かせながらマトカイネンにしきりに聞いた。エルゴはロタをちらっと見やって、先程まで毅然と交渉を持ちかけた時の雰囲気はすっかりなくなり、年相応の少女のように振る舞っているのを見て、ただ当惑した。


 ***


「それにしても、この世界の人が話の通じる相手で良かったですね〜」

 車窓から「夜警」たちをーー特に、車を懸命に運んでいる「クークラ」たちを眺めながら、ロタはエルゴに語りかけた。

「……こそこそ囲まれたりしなきゃあもっと良かったがな」

「まだ疑ってる……マトカイネンさんが「命をかけて」っておっしゃったのに偽りはないですよ、あの粘土板の前で行われた儀式の詳細はわからないですけど、相当な強制力を持ったものですから。それでももしものことがあったら、あなたがいますし」

「……」

エルゴは顎杖をついて、唸り声を上げながら考え込み、言った。

「あんたとの出会いがああだったから、俺はまだ、これからお守をするもんだと勘違いしてた。しかし、あのマトカイネンとかいう男に言いくるめられそうなところをあんたに助けられたわけだ。俺は頭は回らんようだから、そういうことはあんたに任せる」

「げ、固く握手をして誓いを立てたというのに、そんなことを」

一瞬困惑した素振りをみせたあと、軽く咳払いをして、

「当然ですけど、これでもあなたよりは旅慣れしてるんですからね、えっとだいたい……」

何かを指折り数えながら頭を捻るのを見て、エルゴは自分が生真面目に発した言葉を撤回したい気持ちがよぎったが、ぐっと堪えて

「頼んだぞ」

と信頼を示してやる。

「早速先達のあんたに聞きたいんだが、どうして俺は自分のことをほとんど思い出せなくて、聞いたこともない「暗い水」や「夜蛾」の言葉がわかるんだ?」

「それはたぶん、混沌界に散逸したあなたの情報を再構築するために、まず私の知識が参照されて……」

旅人教区に着くまでの数時間、エルゴはロタの講釈を聞き続ける羽目になった。





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