093 bonus07, lunar strain/月の歪み
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【AD:1512年】
くっそおおおおおふっざけやがっってえあんのやぶ蚊野郎おおおおおおぉぉぉおおお!
ホントにバカだなあいつはああ!!俺だって人の事ぁ言えねえぇけどよお!同僚おいてさっさとトズラってどいう神経してやがる!
アッタマきた、追いかけてぶん殴ってやる!!
…あンのやろう、相当遠くまで逃げやがったな、ふっざけやがって。
突入ポッドの機能はイニシエーションでインストール済みだが、あの軽薄さは治せねぇようだな。
こっちの荷物だけは投げ出してたから何とかなったが、あの野郎見つけたらただじゃおかねぇ。
何日か走って追いかけたが、着陸しねえでさっさと南の方へ行っちまいやがった。
そういや、ここは異世界なんだよな?
ただ山谷があるだけで、まったく実感がねぇ。
夢中でまっすぐ走ったから集落めいたものはおろかまともな道も見覚えがねぇ。
フと我に返り、体中のけがの手当てをしながら独りの夜を過ごす。
何となく空を見上げた。
故郷と言っていいのか、施設で見上げたのと同じ満月だった。
憎しみよりも、なんとなく虚しさを覚えた。
俺は、何だろう…
俺たちゃ目的のために作られた兵隊だ。
何も考えなきゃ楽なんだろうが、あのやぶ蚊野郎や火付け魔、エテ公のように今の立場に疑問を持たねぇ連中とは一緒になれねぇ。
まあ、それもナージャあってこそだったんだが。
そんなことを、うすら寒い中に満月を見て思い出す。
同じ月じゃねえか、今までいたサリシャガンと何が違う。
夜が明けて落ち着いたので、荷物を改める。
ここまで無我夢中で走って来たから、自分が何持ってるかも確認してなかった。
小箱、ナイフ、何日か分の携行食、水分、石板…
一応、背負い袋の個人装備一式は揃ってた。
ああ、そういえばこういう時の為に石板を支給されたんだっけ。
1512年?あれ、これって予定よりだいぶ早いんじゃねえか?
マジか、これじゃ任務どころじゃねぇ、てかナージャどうした!?
石板に何か情報ないか?
おう、シティアなんかとよくつるんでたジジババ博士からメッセージ来てるじゃねーか。
2号機と5号機は1500年代に飛ばしたって?
2号機はあのクソやぶ蚊野郎と俺が搭乗してたが、5号機は…あっ、ナージャとエテ公!
てことは、もしかしたら先か後にナージャがいるかもしれねぇ!
クソやぶ蚊野郎はムカつくが、あんなやつよりナージャが最優先だ!
それからは苦難の旅だった。
年代は解ったものの、正確な日付は解らん。
そもそもココはどこだ?
ナージャを探すためにはどうしたら良い?
俺は、この世界で何ができるんだ?
最初から分かっていたのだろう、頭の悪い俺でも言葉に困ることは無かった。
インストール様々だ。
沢を下れば人里か、橋くらいには行き会うだろう。
運よく道を見つけ、そこを辿って現地人の住む集落を見つけ、現状を探った。
最初の村はダメだった。
人を見かけた瞬間皆蜘蛛の子を散らすように家屋へ飛び込み、そのまま出てこない。
数軒だし片っ端から殺して回ろうかと思ったが、疲れていたし面倒だからやめた。
水と放置されてたヤギをもらい、そこを後にした。
次は、施設よりは大きな町?だった。
入ろうとしていったん止められたものの、ヤギの喰い残しを保存食にしていたものが気に入ったのか、すんなり入れてもらえた。
外の事は何も知らなかったが、現地人に比べてもデカかい身体が買われたようで色々頼りにされ、食うに困らない生活を送ることができた。
何度か娘を宛がわれそうになったが、面倒だからそのたびにナージャからもらった腕輪を見せ諦めてもらった。
俺はこの世界の常識を知らんが、求めるのはナージャだけだ。
だが、肝心のナージャを探す手段が思いつかねぇ。
この小さな町じゃ外の話も入ってこないから、外へ出る事にした。
最後の晩に寝床へ忍び込んできた娘だけは、引き留めないことを条件に相手の気持ちを汲んだ。
その娘から、女に恥をかかせるなと教えられた。
世帯を持たなくても、求められたらその場だけ付け合ってあげなさい、と。
三つ目の行先は近隣で一番大きくて古い町、ホルムガルドと呼ばれるところだった。
前の町から来た、というとすんなり入れてもらえた。
暫くは真面目に働いた。
少額でも金銭を作り、情報収集し、空から降って来たナニカの噂を探るためだ。
そこじゃ3年ほど居ただろうか、石板も時を刻むばかりで、この原始的な生活に刺激は少ない。
やたら女が寄ってくるので、そこだけは辟易とした。
求められたら応えたが、一緒には住めないと条件を付けるのは忘れていない。
出来た子供達は俺の子と認めたが、女達と一緒に住むことは無かった。
怒られようと、いづれは出てゆく身だ。
その時は、唐突に来た。
酒場で、空から隕石が落ちたという話をする人間を見つけたのだ。
そいつを捕まえて、とにかく詳細を聞いた。
話をしていた男は行商人で、前の満月のころ滞在していた北の方の村で何かが空から落ちてくるのを見たそうだ。
詳細な場所は…突入ポッド2号機の到着地点辺りか?
そいつに財布の小銭全部くれてやり、急いで酒場を、いや町を出た。
荷物なんて、最初の手荷物だけで充分。
来た時は必至でやぶ蚊野郎を追いかけてたから自分の到着地点なんてよく覚えていない。
だが本能はこっちだと告げている。
暫く進むと、来た時に見かけて風景を思い出した。
よし、これを突っ切れば早く行ける。
もう少しだ、ここを抜ければ、ナージャに会える。




