092 tr36, traveling through time/時を旅する
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【AD:2122年, 革命新暦:200年、春】
「同志ドゥナイアリタの第52代総書記長就任と新革命暦200周年記念式典をこれより開催いたします」
いよいよ俺たちの異世界送りが始まる。
各人突入ポッドへ乗り込み、時を待つ。
この国の栄光や要人など俺たちの人生には関係ないが、お節介でポッド内へ中継しないでくれるのは助かるね。
1号機から順に補助ロケットで打ち上げ、空中で魔石によって生成されたキリル波を3方向から当てて次元コヒーレンスを起こし、同期した瞬間を狙って突入ポッドを異世界へ滑り込ませる。
派手な音や光が出れば演出として派手かもしれないけれど、そんな無駄なエネルギーは費やせない。
唯々、空中でパッと消えるだけ。
ああ、あとは補助ロケットがどこかへ飛び去るかもしれないね。
突入ポッドは、体制側の人は補助ロケット込みの形として位相転移カーゴと名付けたみたい。いかにもお荷物と言った感じで嫌だけど、現地へ出向く俺らにとってはどうでもいい話だ。
俺たちは2号機だ、もうすぐ出発。
後は寝て待とうかな。
…到着後の情報によると、到着した場所や時間に予定より大幅なズレがあったみたい。
予定通りの異世界歴AD2022年に到着したのは1号機だけ。
2、4、6、7号機は1942年、3号機と5号機は1512年に到着したとか。
これは数少ない通信ツールの石板から得られた情報。
出発の直前におじいちゃんおばあちゃん博士からの通信が入っていたから。
各人とも、長期視点を持って体制を整えよ、だってさ。
そっか、あの二人を祝福したかったんだね。
はるか昔に到着したみたいだしもう会うことはなさそうだけど、幸せに暮らせただろうか。
さて同世代のポッドは到着予測地点の緯度・軽度もあるから、地図とリンクさせて合流だね。
近い順に合流したいけれど、俺たち施設から出たことがないからちょっと不安だなぁ。
特に6号機。
あの二人は放っておいても良い気はするけど、まあ気が向いたら行ってもいいかな。
最寄りは7号機だから、まずはそっちだ。
何よりユリアを独りにしてフラフラ出かけちゃあ、ちょっと可哀相だし。
先ほどの位相転移カーゴ打ち上げにつきまして、転移は成功、但し時間軸について多少の誤差が確認されました!」
「どの程度?」
「目標値よりプラスゼロ、マイナス500年です!」
「思ったほど余裕なかったのぅ」
「最初から座標指定するとバレますからね。
それにしても時間軸をバラバラに設定して、別の座標軸の子達は会えなくなるんじゃありませんか?」
「タイムパラドックスじゃな、そこはワシもちょっと考えたがの。
じゃが所詮は同軸上を推移する世界線じゃ、多少のブレはあるかも知らんが、おそらく全員同じタイムライン上に乗るはず。
運命や輪廻といった言葉は嫌いじゃが、ある程度は軸上の起こりうる事象、つまり事件や出来事はそうそう関係性が変わらん。
つまり、あの並行世界で大きく世界を揺さぶることが無ければ、分岐上は同一のまま。
元から続く時間軸に干渉する出来事、例えば魔石をトン単位でこちらの世界に送れば分岐の可能性はあるが、これは設備的・技術的にも全員揃わねば難しいじゃろ。
送り出した最後の時代、2022年以降はワシらと同期しとるからこの先どうなるかはわからん。
観測する気も介入する気もないから、のんびり見て過ごすわい」
「私たちも請負の追加オーダーがありますからね。
彼らは、本当にこちらの世界へ魔石を転送すると思います?」
「条件としてはかなり厳しいと思うぞい。
なにせ転送に必要な資材はバラバラの時代・場所に送られ、かつ知識のある人間も限られとるからの」
「でも可能性はあるって事ね…。
あのマリアベルの目を盗んで仕込んだなら、このくらいがせいぜいかしらね。
一応手配のミスで転送に影響が出た、って事にして、可能性をアピールする報告だけはしておかないといけませんね」
「うむ、知らされないことを何より嫌がるからの、あの女。
報告を上げて、あとは適当なプレゼン資料でも作っておくかの」
…やってくれたな、博士たちも工作員たちも。
どちらも私の目を盗んで小細工をしていたのは把握していたが、相乗効果で影響が大きい。
各機材の耐用年数は100年が良いところだし、それを踏まえて着陸地点も敢えて揃えたというのに、すべてバラバラにしおって。
それに思想教育も計画と実際のプログラムにズレが大きい、特にXXは反共分子になりうる。
…まあ、魔石を転送できなくとも、工作員たちを異世界へ送り込んだ時点で私の目論見はほぼ達成だ。
この世界で生きづらさを感じ、男として人生を再出発させる思惑を実現できたからな。
あいつには色ボケ豚や口うるさい身内もいない、自由にやってもらいたいものだ。
可能ならばジルベルトを連れて行ってほしかったが…まだ、もしかしたらアベルに宿っているかもしれない、諦めるのはまだ早い。
なあ、ジルベルト、そうだろう?




