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War Ensemble/ウォー・アンサンブル ~戦争合奏曲  作者: 改案堂
第二章 Divine Intervention/神の干渉
89/144

089 tr33, fuges no.5 in D major/バッハ:フーガ5番ニ長調

ーーーーーーーーーー

【AD:2121年, 革命新暦:199年、夏】



この世界で過ごす、最後の夏至の日だ。

様子を見ていると、俺たち候補生よりも職員達の方が楽しみにしている様だ。

だって、彼らは仕事中に呑んで歌って騒げるからね。


でも今回、俺はちょっとだけ気持ちも違う。

ずっと弦楽器の練習は続けてて、フィドルなら人前で演奏しても悪くない程度にはなったつもり。

それに楽譜も読めるようにして、バッハの鍵盤練習曲をケーにいちゃんや他の職員なんかも協力してもらい、弦楽器用にアレンジしたんだ。

本当は練習用だから人に聞かせるためのものじゃあないけど、それでもある程度手応えがあると他人にも聞いてほしくなるんだよね。


俺たちが異世界へ持っていけるものなんて、しょせん小さな箱一つ分だ。

楽器一つとっても向こうで調達になるだろうから、作る方はともかく使えるものはなるべく多くしとかなきゃ。

大事なものなんて大してない、子供の頃のおもちゃなんて持って行っても仕方ないもんね。

せいぜい手帳と…文房具くらいかな。

あれ、なんか忘れてる?まあいいや、出発までまだ半年以上あるし。


演奏は、上手くいったと思う。

ケーにいちゃんは今回チェロではなく、ギターだったけど。

こっちも色々試したいんだって。

…石投げ以来ちょっと自分で考えることが増えた、かな?


アベルは相変わらず音痴だったけど、やっぱり誰も指摘しない。

お気に入りを侍らわせてニヤニヤしてるのもいつも通りで、今日はリザとユリアが接待係だった。

二人が巧く気を逸らせてくれたおかげで、フーちゃんとナージャがそっと姿を消した。



そういえば凸凹コンビ、このところドラクルとグリゴリに加えておサルがよく一緒に居てトリオになってる。

随分とお酒を呑んだみたいで、三人してフラフラと何処か行っちゃった…と思ったら、会場の裏手で騒ぎ始めた。

「お前だけフェアじゃなかろう!我輩からリザ殿を奪ったくせに、なんでお前はナージュシャディとそんな仲良くしてるんだ!」

「良いことを思いついた、ナージャ殿にも火を着けたら良い。

 大きいし、リザ殿ほどではないにしてもさぞかし美しかろう!」

「うきゃきゃきゃきゃ!それじゃヤれねーだよ!キーッキキキキ!」

「クソッタレ、ベロベロに酔っぱらいやがって…今問題起こしたらどうなるか、わかんねーのかよ」

「済まない、私が気を抜いてドラクルにプレゼントの包みを奪われなければ…」

「おおそうだ、人間がダメならこっちの袋に火ぃつけてやれ!

 ほれグリゴリ、パス!」

あらよっと、横から包みをキャッチして全力で逃げてやったぜ、へへ!


「アーっ!このチビ助!返せ!それは我輩がとったものであるぞ!」

はは、酔っぱらいがなんか叫んでら、グリゴリもサル公もゲロンゲロンだ、あっははは、愉快愉快。

フーちゃんもナージャも手を出さなかったのは偉いな、だけどもーちょっと場所考えなきゃね。

ぐるーっと施設を大回りしてから会場に戻り、そっとナージャに近づいて包みを渡す。

「今度は上手くやってね」

「済まない、私が迂闊なばかりに…」

「昔俺もユリアに注意されたんだけどね、こういう時は『ありがとう』って云うんだよ。

 せっかく滅多にないチャンスなんだから、もう少し粘ってみ。

 リザとユリアも頑張って協力してくれてるからさ。

「…わかった。ありがとう。

 いつかきっと恩は返す」

良かった良かった。

…あれ、なんであの二人ってプレゼント交換してるんだっけ?



気を取り直して、俺もちょっとだけ話したいヤツが居る。

ケーにいちゃんだ。

アベルの後ろでメドやんと一緒に立ってるから、すぐわかる。

「ねね、ケーにいちゃん、ちょっとだけ席外せない?」

「どうした」

「ちょっとだけお話ししたいなーって」

「ならば、食べ物を取りに行く間だけ」

「ホントにちょっとだな!まあいいや、行こ!」

「アベル様、少し食事をとってきます」

「ああ、メドベージェフもいるからこっちは大丈夫だよ。

ゆっくり食事を楽しみたまえ」



「それで、話とは?」

「…ねえ、君は本当にアベル様を慕っているの?自由になりたくないの?」

「質問の意図が分からない。それに、滅多なことを云うものじゃない。

 お前たちと違って、俺は他の事を知らない。

 俺の主はマリアベル様、今後はアベル様だ。

 今は引継ぎの最中で少しだけ余裕ができた、だから石投げやギターの練習もできる。

 彼女らは特殊体質で、定期的に『充電』する必要がある。

 だから、傍を離れるわけにはいかないんだ」

「充電、ねぇ・・・?

 案外機械式のアンドロイドだったりして!ははっ」

「それはない。俺は二人とも体の隅々まで知っているが、ちゃんと生体だ」

「えっ、それって…」

「おいヴォルケイン!アベル様が飲み物もってこいだとよ」

「わかったメドベージェフ、今行く。

 …あんまり詮索しない方がいいぞ、矯正される

 それから俺はお前の兄ではない、ケインと呼んでくれ。

 お前には教わることも多かったし、世話になっている。

 大きかろうと年上だろうと関係ない、同じ目線で話すべきだ」

「うん、そうだね…ありがとうケイン、またお話ししよーね!」

彼は振り返りもせず、手をひらひらさせて食卓へ戻っていった。

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