088 tr32, her diary's black pages/黒く塗られた、とある日記
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【AD:2121年, 革命新暦:199年、夏】
「もうあまり時間がないわ、私たちが集まれる機会もあまり作れない。
夏至の祭りが終わったら集団生活が始まる。
それまでに、私達だけの時間をあと少しだけ作りたい」
リザが、緊迫した口調でそう告げた。
俺たち四姉妹の集まりで四人ともユリアの部屋に入って、一番最初に伝えた言葉だ。
「それだと、俺の見立てでは夏至祭りの前々日が最後のチャンスかな。
あと2週間くらい。
皆の授業とPCBの勤務予定的に、そこだけだね。
なにあった?」
「ええ、先日新年会でマリアベル所長から宣言されたでしょ、今後の方針。
その後PCBから聞かされたスケジュールの反応で、皆の様子を見て思ったの。
矯正洗脳や教育と称して私たちは国家に都合の良い思想へ誘導されているわ。
私達は、それが我慢ならないからこうして集まっている。
けれどバレてしまっては、ドラクルやグリゴリのようなお花畑か、アジンやメドベージェフのように木偶人形になるのがオチ。
ならばこれから先、少なくとも監視の目がなくなるまではいったん解散して、潜伏したほうが良いと思うの。
そのための符丁や暗譜を準備しておきたくて」
「そうね、私も集団生活の前に何か準備したほうが良いと思ってた。
そしたら…例の箱に入る範囲内で目立ちにくいものか、身に着けていても不自然じゃないものを準備して、それを目印にするのはどう?」
「追加だな、私は左目の義眼とイニシエーションで暗示を強くかけられるようになったから、ユリアの準備するそれと組み合わせよう」
「私たち以外はどうするんだ?」
「うーん、ここにいる四人以外、フセスくんも含め教えない方が良いかもしれない。
知る人の少ないほうが、秘密は守りやすいわよ」
「そうだな、私もそう思う。
正直さっきの四人とヴォルケイン、アベルは明確に体制側、サルは論外として、他の者はどうなるかわからん」
「フセスはそんな奴じゃ!」
「ふふ、相変わらず可愛いわねナージャちゃん。
ちょっとだけ立ち止まって、聞いてもらって良いかしら。
私も彼は信用できると思うのよ。
それはそれとしてね、私達女の子だけの秘密が欲しかっただけよ。
ナージャちゃんは、私たちの事嫌い?」
「いや…」
「大丈夫、彼には向こうに行ったら皆でちゃんと説明して、一緒に居られるようにしようね。
私たちは一緒に居られないかもしれないけれど、心は共に在りたいの。
候補生と言われてから色んなことがあったから、せめて拠り所が欲しいだけなのよ」
「ユリア、それにリザ、すまなかった。私が軽率だった。
私だってシティア含め三人を大事に思っている、もう大切な人は失いたくないんだ…」
「ごめんね、泣かせるつもりはなかったの…でも、私だって…悔しいの…」
「ここにいる人間で、現状に不満を持たない姉妹はいない。
国家体制にとって小さくても、私達には大事なことだってたくさんあったんだ。
それを、あんな形で踏みにじって…
こんな環境で得られることだってあったかもしれないのに、私たちは失ってばかりじゃないか…!
私だって、もう、嫌なんだよ…」
「リザ、気張りすぎだよ。
前に言ったじゃないか、いつでも僕は君の味方だ。
ユリアも君も最近随分無理してるけれど、心の拠り所としてこの集まりを大事にしてるのは良く知っているとも。
ナージャが寂しんぼなのも、ね。
僕らの心はずっと一緒だ。
あと少しだけ、少しだけ我慢しよう。
その丘を越えれば、ずっと遠くへ行けるさ」
夏至祭りの前々日。
「できたわよ、皆の分の目印。
表側は革素材ね、鞣しに特殊工程を通したから水に濡れても平気だし、経年劣化もし難い仕様よ。
裏地も肌に当たる前提だから、これも特殊素材を融通してもらったの。
PCBに相談したら、割と早く素材を融通してくれて助かったわ。
トレードマークはこのクマちゃん。
この彫金が一番大変だったけど、暗示に使うなら特徴のあるシンボルじゃなきゃね。
四人分、同じものを使ってあるわ。
リザちゃんは眼帯。
前から言ってるけど、貴女綺麗なレディなのよ。
装飾品としてあなたの魅力を引き出すには不足かもしれないけれど、火傷痕を修復しないならせめておしゃれとしてその左顔はコレ着けて欲しいな。
ナージャちゃんはチョーカー。
デザインや大きさを少しづつ変えたお揃いを、フセスくんの分と一緒に作ったわ。
夏至じゃなくて、冬至の時のプレゼントとして彼にあげてね。
明後日のプレゼントはもう準備してるって、実は知ってるの。ゴメンネ。
それからシーちゃんはプレスレット、私とお揃い。
最近ずっと外に出てて顔も見せてくれないんだもの、私だって寂しかったのよ。
私たちはもう大きくなってしまったけれど、ここでの経験は忘れちゃいけないの。
だから、私たちはそれぞれの特別で居たいから…」
彼女の思いは痛いほどわかる。
皆じゃれあいながら受け取ったけれど、きっと一生大事にする。
「さて、暗示だが。
ここでの、今までの計画や話を漏らしたくない。
最悪のケースを考えて、誰かが矯正洗脳にかかったら、私たちの関係全てを忘れるようにしたい。
そうすれば、残ったものに被害は出ない。
このトレードマークは、連携のしるしとして持っていると良いかと思う」
「いや、リザ、俺はちょっと目先を変えてもいいかと思うよ。
例えば、一時的にその関係性や計画を忘れるよう暗示をかけるんだ。
トレードマークを見る事で思い出すことにする、とか。
受け取ったプレゼントは、残念だけど一時的に秘密の箱へ保管して、冬至で出して目にするまでがワンセット、とかね」
「二段階の暗示か…できないことは無い。
記憶に鍵をかけて、その鍵はイベントごとに紐づけておくんだな。
それだとナージャの贈り物は当時の皿に先になるが、良いのか?」
「うん、ここにいる間は自分たちで手作りした品物を交換で良い。
冬至は自分で、思い出したらその先で」
「リザ自身は自分に暗示をかけるの?」
「ああ、私は最後に自分で鏡を見て自己暗示をかける。
そこの姿見を借りるけど、良いか?」
「もちろん。
という事は、シーちゃんの案で良いのね?」
それなら三人とも、秘密の箱を持ってこないと暗示かけてもすぐ目にしちゃうわよ」
「ああ、そうだったね。
じゃあ一旦解散して、また集まろうか」




