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War Ensemble/ウォー・アンサンブル ~戦争合奏曲  作者: 改案堂
第一章 War ensemble/ウォー・アンサンブル
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008 tr08 flesh and blood/血肉

翌朝。

腕を組むオレの目の前には正座したルイーズとジェイク隊長。

ほとんど八つ当たりなんだが、云うべきは言ってケジメはつけないと今後に良くない。


夜中の襲撃から直ぐ、階下や屋外からも騒音が続いた。

野盗の頭領がヤケッパチの仕返し…と思いきや、指示していたのは侍女だった。

目的はルイーズの誘拐。

日程やルート、宿泊先から責任者の所在まですべて把握できるのはマネージメントを担当する彼女のポジション。

日程調整、本来辿るべきルートから外れるべく崖崩れで街道封鎖、待ち伏せた野盗による襲撃。

港まで行ってしまうと軍艦による移動なのでリカバリーを焦り、街中で最後まで粘ったと。

階下や屋外では野盗の頭領を始め総勢で20人ほど捕縛されたらしい。

但しそこから先につながる情報は、今のところ出ていない。

もう一頭の馬に相乗りしていた青年とひょろ影は…ここで追及しても分からないだろう。


で、問題は。

イザックからルイーズへの不用意な一言、「So guten planen, Wir haben die Schuldigen auf einmal gefasst.」

(いい計画でした、犯人を一網打尽にできましたね)

後半はともかく前半は英語とそう変わらん、しかもルイーズもジェイク隊長も「しまった」て顔でスッと目を逸らす。

そのイザックにお願いして来栖さんを呼んできてもらい、お説教大会の始まり、


「万が一の怪我や心の負い目を負わせないのが騎士道でしょう。もうこの世界に騎士道は無いのですか?」

「いやそういう訳では…」

「機密のためとはいえ、主君のお嬢様まで巻き込んで何やってるんですか」

「申し訳ない…」

「上司にちゃんと報告してくださいね。特にお嬢様を巻き込んだ件」

「承知した…」


「お嬢様、昨日会ったばかりの男に気を許しすぎです。オレが野盗の一味だったらどうするんですか」

「そんなことないもん、私判るもん…」

「黙らっしゃい。唯でさえ嫁入り前の娘さんが男の部屋に入るのは不用心なのに、その上さらに計画を知ったうえで荒事まで手を出しちゃダメでしょう」

「だって…」

「シロ子たちの心配も分かるけど、最後に自分を守るのは自分です。もっと自分を大事にしなさい。」

「ごめんなさい…」


まだ何か隠してそうだけど、今回はこれ以上無理か。

現場検証を経て、朝食過ぎた頃に第一報が届く。

今回の主犯は侍女、今や野盗となった傭兵団を雇いルイーズを誘拐して身代金目出来だったと語ったそう。

…そんな訳ねえだろ。侍女の後ろに誰かいるだろうし、そもそも傭兵団との繋ぎがありえん。

が、コネクションどころか言葉も通じないオレが首を突っ込むことじゃない。

心のメモに留めておくのがせいぜいだ。



――――――――――



日も昇り明るくなったころ、港へ出発準備完了の知らせ。

今度は西の内海目指して山間部の主要街道を経て大きめの町を幾つか抜ける。

主要道だけあって余裕で馬車がすれ違いかつ歩道になった道幅の広い道路、や数kmごとに組木・手旗・狼煙など各種信号を伝えるだろう施設が点在し、文明の進み具合が窺い知れる。

来栖さん曰く「大半は自前の技術ですが、転移者の方からのアイデアも多く取り入れられている」とのこと。



ここイウロパ大陸内最大の国家であるアウストリ帝国、実際はアウストリ=マジヤル=イスパノ三重帝国と呼ばれ、主に国家元首の血縁を基にした同盟関係を築いている。

盟主アウストリを構成する主要国の一つフルヴァツカ王国はルイーズさんから聞いていたが、どうやら転移・転生・転写者と呼ばれる日本から流される?者はイウロパ大陸全体で年に数十人程度居て、三重帝国内でもフルヴァツカが最も多く半数ほどが見つかるそうな。


転移者は何かの拍子で所持品のみ、着の身着のままでこの世界に転がりこむ者。肉体も精神も以前のままで、これが一番多い。


転生者は日本の記憶を持って生まれてくる赤ん坊のことで、大半は記憶容量が肉体にマッチせず以前の記憶はほとんど失われ、一般的なイウロパ人として一生を過ごす。

ふとしたきっかけで何か思い出すこともあるが、日本で云う「ムー大陸の戦士だった」程度のレベルなので相手にされることは殆どない。


転写者は転生者の亜種で、成人の頭に突然日本の記憶が蘇る。それまでの記憶は保持することもあるが大半は失われ(何しろ言葉も通じなくなる)、社会生活を営めないレベルで深刻な記憶障害とみなされる。オレは多分これだな。


来栖さんのような審査官は各地を巡回しながらこういった様々なケースを対処する専門家で、各国に数名~数十名いるらしい。

数十年前までは不安から従順な人が多かったが、近年チートガーステータスガーマオガユシャガガガーと危険な言動の者が散見されるとのことで、最初のジョークは様子見の為だったと謝られた。

でもそのふぁさっは狙ってるよね?クヤシイ…ぶふぉ



転生者の中には目端の利く方も時々居たようで、手旗通信網やキャノン砲はその恩恵だとか。

生活の不便が減る魔術があると文明も滞りがちだが、それでも大半の人間は魔術を使えない。

僅かでも素質のあるものは2人に1人、軍属として特に勧誘されるクラスだと年間100人ちょい程度だとか。

ルイーズお嬢様は特に魔術の資質に恵まれているだけでなく、文武共に優れ血統も人柄も素晴らしいんですよ、とさりげなくフォローされた。

馬車の隣でずっとしょげてたもんね、ルイーズ。

もう怒ってないよ、と頭をガシガシ撫でる。ギャーというので今度はわき腹こちょこちょ。

キャーキャー云われ包帯のない辺りのハゲ頭をペチペチされた。

元気になって何より。



昼食も過ぎ、夕方になってトライエステ港が見えてきた。

ガス灯だろうか、青い外灯が幻想的な巨大都市だ。


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