048 tr42, not forever/永遠じゃない
翌、日曜日の昼下がり。
オズモシス商会に棺桶受取の書類を持参すると、フルヴァツカ王妃陛下がウィーンへ到着との報せあり。
公式には国王陛下と同行予定扱いなので、今回は非公式のお忍びだ。
とはいえこことは別、帝都城下の店舗で接待を受けているらしい。
またもや神出鬼没のシティアがひょこっと顔を出したので、肩車でそちらへ向かう。
もういいんだ、シルバー号として生きていくんだ…
「あなたがケインさんね。
うちのケリーがご迷惑をおかけしています。
私の付き添いとしてシティアさんと共に、ユリアさんのところまで同行していただけると聞きました」
青い顔の妙齢の女性、体長が良ければさぞかし溌剌とした美女だろうに、今は痛みをこらえるので精いっぱいのようだ。
現フルヴァツカ国王のフィリプ陛下は彼女をとても大事にしていて、婚姻関係にあるのはこのレイチェルさんのみ。
フルヴァツカの王族は数が少ないので行政の空席ポストも多く、今後の課題らしい。
とはいえ王子3名とも優秀らしいし、特に長男は子だくさんだから次世代には解決するさ。
「明日と明後日に私の予定があるので、出発は水曜日になります。
シティアさんもお忙しいでしょうが、水曜日には出られるようお願いします。
ケリー、あとは頼みますよ」
「はい、お母様。
ああそうだシティア様とケイン、そんな段取りだから火曜日の晩はレストラン フルヴァツカ・グラーフを貸し切って打ち上げパーティにしようか。
もちろん水曜日まで例の約束は継続で良いよ」
太っ腹だねケリーさん!
じゃあこっちも、最後の準備と挨拶回りかね。
――――――――――
月曜日の朝。
学長とシュテファンさんに会ったのはもう一ケ月以上前の事だが、挨拶だけはしておきたい。
アポイントなしだが、快く迎えてくれた。
特にシュテファンさん。
「おおさらに大きくりっぱになりまちたねジュロー!」
挨拶もそこそこにもふもふ始まった。
「あれ、そういえば学長の名前はペーター・グラーフ・ワグナーでしたね。
レストラン フルヴァツカ・グラーフのお店の方と縁者ですか?」
「ああ、よく気が付いたね!
店長は私の弟でね、学園に通う姪から依怙贔屓されたくないから秘密に、ってお願いされているんだ。
だから聞かれたら答えるけれど、自分から宣伝はしていないのさ。
それでも店は繁盛してるし姪も成績優秀だ、彼らは頑張っていてとても嬉しい!」
「ではペーターさんお店の場所は知っていますね。
水曜日に我々はこの街を発ちます。
火曜日にグラーフさんのお店で気楽なパーティを開くので、ヴィクターさんやウィリアムさん、エルンストさん達も誘ってぜひいらしてください」
「わ、私たちも行って良いのかね?!」
「ええ、お時間があればシュテファンさんやご家族もご一緒にどうぞ。
但しあまり多いとお店から溢れてしまうので、そこはご加減を」
「ありがとう!明日が楽しみだな!」
プロイセンからの移住組は、これで連絡届くかな。
授業中だろうし、場所判らんし。
ジロはへとへとだったが、シュテファンさんはつやつやだった。
さて、次はルイーズの女子寮だ。
こちらは伝言を依頼するだけなので、スムーズに進む。
今日は受付の方だけで、住人は誰もいなかった。
あとは…ユッケのおっさんか。
商会繋がりだが、1週間毎日世話になったからな。
「ようデカいの、今日はどうした?」
「おーおっちゃん、棺桶持って明後日には出ることになった。
明日の晩暇だったらパーティ来るか?」
「明日かー、まあ大丈夫だろ」
「じゃあ夕方にレストラン フルヴァツカ・グラーフな。
ケリーも来るから、心配いらんだろ」
――――――――――
いつでも出発できるよう荷物の最終チェックを済ませてから、タロジロを伴い早めにレストランへ。
学生はまだ授業終わっていないから、後で皆来るだろう。
テーブルや清掃など出来る範囲でお手伝いだ、でないとオレが落ち着かねぇ。
「大きい人に手伝ってもらえると助かるよー!
特に貸し切りの立食パーティだと椅子を片づけたり什器の移動が大変でねぇ。
ペーター叔父の事もバレちゃったみたいだし、ウチに婿入りしないか?」
「いやそっち方面はだいぶ間に合ってるから止めてくれ。
明日から居なくなる奴に云うジョークじゃねえぞ」
「リャチスラヴィチの娘さん処には帰ってくるんだろー?
うちの娘もつけてやるかr」
バギッ
「もーお父さん、何変なこと言ってるの!
ちょっと目を離すとすーぐ婿に婿にって言いだすんだから…
ほら手が止まってるよ、直ぐにみんな来るから準備急いで!」
ルーディさんのお帰りだ、助かった。
そうこうしているうちにワラワラと集まるカシマシ娘達に学年違いの若者たち。
「ついに明日ですね、寂しくなります…
でも楽しいこともたっくさん先生方に託してくれたので、退屈はしないと思います!
タウルもジェーロも無事帰ってきてね!」
タロはルイーズなら平気なんだ、ジロと左右で顔をベロベロ…キャーキャー喜んでるが、普通に人間と肩を並べる体高のイヌ科生物ってなかなかないぞ。
「最後の最後になりましたがやはり私はあなたの事を忘れたくありませんここはひとつ私も婚約して帰りを待ついやむしろ一緒に連れて逃げて下sムグッ」
途中でマフィンを口に放り込んどいた。
この娘口にモノ入れて喋ったりしないし、基本お行儀は良いんだがなぁ…
申し訳ないが他の娘たちにお引き取り頂き、準備を続ける。
先生方は少し遅れると学生さんから聞いたので、あとはオズモシス商会の関係者か。
「ようデカいの、呑みに来たぞ!」
「おーおっちゃん、まだ宵の口で学生もいるから、最初は程々になあ」
「わーっとるわい、ちと料理の給仕を手伝ってくるわい」
イッパイひっかけるつもりだな・・・まあいいさ。
騒いでいるうちに、偉く豪華な馬車が横付けしてきた。
一瞬静まる店内。
馬車の扉が開きピョコンと飛び出てきたのは、髪もそろえ化粧も施し優しい笑顔の…シティア!
「よっ、出迎えご苦労!」
ぶぶっとふきながらどこの姫様かと揶揄っていると、ケリーが出てきた。
「やあ、出迎えご苦労様」
お前はもう完全に王子様を隠す気なくなったな、わざわざ学生服から着替えてキンキラキンだ。
このお店でそれは大丈夫なのか…
「あら、お出迎えご苦労様です」
今度は誰か…レイチェル王妃陛下その人だった。




