125 tr21, nevermore/次はない
昼前にストックホルムの郊外へ到着。
ユリアから預かった手紙もあるし、この田舎から出てきた巨人娘には刺激が強いので、今日は門よりずっと手前の市街地で宿泊予定だ。
「へーへー!すっげーな街って!こんなにいっぱい人いるんだ!
都会の人間ってみんなこんなちっこいのか?!アタシの肩より低い奴ばっかじゃん!
それになんだあのヒョロっとした四本足!
でっかい荷車曳いてるけど重くないのか?
あっ!旨そうな匂い!あっちいこーぜケイン!」
「あれは『馬』って騎獣な、他にも首が短くて角の生えた牛ってのもいる。
それから街の人間が小さいんじゃなくて、オレとお前さんが特別大きいんだ」
ずっと二人だったから忘れてたけど、この娘も2m越えの身長なんだよな。
目つきこそキツいが顔立ちは整ってるし長い赤髪を後ろに降ろして、まあ目立つこと。
タロとジロはともかく、オレは存在感薄くなる…よな?
買い出しや通行中だろう人々から遠回しに囲まれる中、アンゲラはそんな好奇の目をものともせず屋台に近づく。
「こんちわ!おっちゃん、これなんだ?」
「これは%$#のスープで、こっちは黒パンだ。
お前さんら何処から来たんだ?」
「え?%$#ってなに?アタシたちゃここのずっと西のモガモガ」
「ああ、悪いな店主。こいつァ田舎もんでモノ知らねえんだ。
おれたちゃずっと南西の、イエテボリの方から来た。
そこのイスとテーブル使えるなら、二人で食事したいんだがいいか?」
「ああ、もちろん買ってくれるなら構わんよ」
「それと金はスヴェンスカの貨幣でいいんだな」
「もちろん、ここはスヴェリエ王国のお膝元だからな」
「助かる。じゃあこのきのこスープを5人分、黒パンは10個、そこのソーセージ2束、牛乳があればジョッキで三杯、あと隣の屋台でイチゴを一皿ぶん融通して貰おうか」
「あいよ、全部で…銀貨2枚ちょうどだな」
「3枚払う、駄賃代わりと迷惑料だと思ってくれ。そこのデカい犬も連れなんだ。」
さっきから落ち着きのないヤツの手首をしっかり握り、ここいらの屋台では珍しい併設の食事スペースへ押し込む。
「ウマイなこれー!なんだよやっぱり男連中はこんなイイモン外で食ってたのか!
パンも固いけどスープに漬けるとウマイのなー!
この粒、イチゴ?野イチゴより全然でっかいし甘い!
おいちゃん、ソーセージとシチューおかわりー!」
おおはしゃぎの娘の脇で、オオカミたちは大人しくお座りの姿勢でソーセージを齧る。
「店主よう、ここいらでオレらみたいな巨人と動物連れに理解のある宿知らないか?」
「あぁ?うーん…そうだな、この通りを真っすぐ進んだ先の港なら得体の知れない連中でも受け入れるか、あとは宮殿でも頼るくらいしか思いつかねぇ。
お前さんたち巨人は身内のネットワークで宿も決めてるんじゃないのか?」
「事情があってな…それ以外の行商人なんかの宿は?」
「ふつうの宿なら、ほれそこの南側の通りを中心にいくらでもある。
お前さんら目立つから、気をつけろよ」
「ああ、ありがとよ」
既に屋台の前は人だかりでいっぱいだが、アンゲラはそれも嬉しいのかニッコニコで愛想振りまいてる。
「そんじゃ、ごちそうさま」
「おう、またよろしく」
「機会があったらな」
案外気の良い、赤ら顔でハゲ仲間の店長と軽口を言い合って屋台を出る。
屋台の人だかりばかりでなく丁度昼時になったメインストリートは人でごった返しており、人口の多さと所得層の厚さを誇る。
特にこの辺りは値段的にもラインナップ的にも低所得用というよりは中所得層向け、かつ馬車4台分程度はすれ違えそうな道幅が人でいっぱいの盛況ぶり。
こういう時に背が高いと事を運びやすい。
早速あらぬ方へフラフラ流される赤髪を追いかけキャッチ。
「なあケイン、あれキレイだな!」
「ゴラ、勝手にどっか行くんじゃない。
宿取ったらきれいな服や装飾品を買いに連れて行ってやるから、それまで我慢しろ」
ユリアの手紙を届けに宮殿まで行かにゃならん、今の服装のままだと門前払い喰らうからな。
「えっ、いいの?!ヤッター!じゃあ我慢する、でも見るくらいは良いでしょ?」
「ああ、但しちゃんと手は繋いどけ。
それからタロとジロより外側に行かない事」
「わかった!たーのしみー」
治安やトラブルのリスクを考えて、ストックホルム宮殿にほど近い周辺で宿を探す。
貴人や富裕層の利用することが多いこの近辺、さすがに人の影は少ないがその分警備兵からの視線が痛い。
「いらっしゃいま…ヒッ!」
「宿泊したいのだが」
「あ、あいにく繁忙期でして当店は予約で埋まっておりまして…その…スコルを連れたお客様ではこの周辺でご宿泊は難しいかと…」
「そうか、この周辺では皆同じか…」
「申し訳ございません、船着き場の方でしたら、騎獣含め受け入れられる処もあるかと思いますので、何卒」
「悪かったな、アドバイスありがとう」
もう何回繰り返したかわからんこのやり取り、当然のようにオオカミ連れじゃ高級宿は無理か。
一通りダメ出しを頂いたので船着き場方面へ移動し、宿を探す。
「いらっしゃーい!何人だい!」
「大きいの二人と、あと動物が二頭いるんだがいいか?
「動物?…ああ、昼頃ガンコオヤジの屋台で食事してたご一行様だね!
買い出しの時に見たよ!
ウチは厩もあるから歓迎だよ!何泊するかい?」
入って一件目の宿で、肝っ玉母ちゃんよろしく威勢のいい女性受付の宿を取れた。
ここで済ませてしまおう。
…事は安直に済ませるべきじゃないと、あとで後悔する。




