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War Ensemble/ウォー・アンサンブル ~戦争合奏曲  作者: 改案堂
第三章 Diabolous in Musica/音楽に潜む悪魔
123/144

123 tr20, raw energy/エネルギー源

「はぁ、はぁ、ゼィ、ゼィ…ちょ、ちょっと休憩しようよ。

 朝から歩き通しじゃないか」

「あんまりのんびりしてると、直ぐ冬になっちまうぞ。

 毎日鍛えた体力は何処行っちまったんだ。

 しょうがねえ、次の水場で小休止しよう。

 タロ、宜しくな」

先導役の黒オオカミは、水場を探しに走り去った。



山中で家出娘の巨人アンゲラを拾って2週間ほど。

帰りたくない、というので彼女の両親や祖父母、長老の曽祖父に手紙を代筆し、長命スコルのロキ率いるオオカミの群れにお願いしてリーヴァ氏族の村落まで届けてもらった。

どうも見通しの甘い娘だったので、モーレイからストックホルムまで1,000kmに及ぶ山中行進に同行させている。

ストックホルム発なら船便でずっと快適に戻れるだろう。

それに、子供の冒険心なんて山を越えて街を訪ねれば充分満たされるはず。


オレ単独なら目的地まで半ばを超えている日程だが、彼女のペースを考慮して進度はそのまた半分程度。

それでも歯を食いしばって付いて来るあたり、根性はあるんだが。


「なあ、本当にこんな山奥に街なんてあるのか?」

「ずっと先、山を越えて半島を横断して東側の海岸まで抜ける。

そうすれば遠からずストックホルムというここいらでは一番大きい街がある。

 そこには港もあるから、アンもそこからどうするのか考えておけ」

「チッ、いつも言ってるじゃねえか、アタシはもうあの集落に帰りたくない。

 世界を旅して、大冒険するんだ!」

「そんなら、もっと身体も頭も鍛えな。

 読み書きだって交渉だって、全部自分独りでやるんだ」

「エッ、なんで?」

「なんで?じゃねえよ、いつまでオレに頼るつもりだ。

 せめてアルファベットは覚えろ。朝食後教えて夕食前にテストするから、出来なかったら飯抜きな」

「えぇー!女には必要ないってば!」

「バカ言え、都会じゃ男も女も関係ねぇ。

 出来る奴は生き残る、出来ない奴はサヨウナラ、だ。

 うし、そろそろ出るぞ。

 あ、それから進行速度を更に上げるぞ。

 ついて来れなかったら、取り残されるなぁ?」

「うへー、マジかよ!この鬼!悪魔!ツルッパゲ!ミズムシタムシ!」

「最後のは違うだろ。

ま、せいぜい頑張りたまえ」


面白いなぁ、悪態つきながらもちゃんと付いてくるの。

タロとジロの方が却って心配してるくらい。

でもアンゲラはアンゲラでオオカミ苦手なんだよね、なかなか慣れない。

デカい獣が怖いのは、まあ理解できるけど。


更に2週間ほど、集落を発ってからは1ヶ月近く。

ようやく旅程の半分を少し越えた。

アンゲラは、相変わらず文句言いながらちゃんとアルファベットと数字を覚えた。

「お前さん、計算は?」

「何に使うんだよ、出来るわけないだろ」

「アン…図体はでかいのに、頭の中身はザンネンか」

「うっるせー!ケインなんて頭の毛がザンネンじゃんか!」

「毛は無くても計算にゃ支障ない。

 しょうがねえなあ、アルファベットと数字は覚えたようだから、単語と足し算・引き算に替えよっか」

「かぁー!なんだよ!アタシいじめてそんな楽しいか!うわぁーん」

「毎日その泣き真似聞いてるからな、もうお腹いっぱいだ。

 むしろもっといじめたいまである」

「くっそー、好きな子いじめたって振り向いてもらえないんだぞ!」

「ざーんねん、好きでも何でもないし楽しくて仕方ないわ」

「覚えてろよー、アタシが有名になったら、絶対性格の悪いケインってやつがいたこと言いふらしてやる!」

ホント子供かよ。



もう8月に届こうかというある日の昼過ぎ、大きな街を俯瞰できる切り立った崖にさしかかった。

「おー!あれが都会かー!なんだあれ、あのコチャコチャした粒々全部に人が住んでるの!?」

「ああ、まあだいだいそうだな。

 あれが目的地のストックホルムだ、これから徐々に行き交う人や家畜が増え、人の住む建物も多くなる。

 行く前にいくつか守ってほしい事がある。


ひとつめ、絶対にオレから見えないところに行かないこと。

 道に迷ってあげく酷い目にあったり、二度と会えなくなるかもしれないぞ。

 いきなり走り出さないで、先ず一声かけろ。


 ふたつめ、面白そうなものが目についてもパッと飛びつかないこと。

 他の人や荷物にぶつかったら大変なことになるぞ。

 気になったら、まずオレに確認しろ。


 みっつめ、知らない人に声をかけられても付いていかないこと。

 アンは珍しい巨人族の女、しかも認めたくないが相当の美人だ。

 すぐに攫われて悲惨な目にあいたくなきゃ、絶対そばから離れるな。


 よっつめ、ジロジロ見られても気にしない、何かされても反応しないこと。

 これだけ大都会でも、巨人は珍しい。しかもタロとジロまでついてくる。

 ものを投げつけられても、いちいち投げ返さないように」


「なんだよ、アタシは子供かよ!そんなら手でも繋いで、逃げないようにしとくんだね!」

「ああ、それがいいな。握って離さなきゃ、逃げられないからなぁ?」

「なっ、バカ!ハレンチ!ツルッパゲ!」



このまま町まで行っても良いが、夕方のせわしなさをいきなり体験させるのは良くないので今日はここで野営。

アンゲラ文句言いながらもちゃんと野営の手が動いてる、込みは上々だ。


久々に落ち着いてチェロを弾く。

夕べに合わせバッハのチェロ組曲ト長調1番やちょっと変化球でboleroにtango、周りを気にせず気の向くままGhibliにも手を出す。


…弾いてて思いだした、手紙だ。

慌てて魔燕を見ると、とっくに帰ってきて眠りこけてた。

後ろにびっくりした顔の人間がいた気もするが、まあ思いついたらすぐやらないと、と作業に移る。

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