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War Ensemble/ウォー・アンサンブル ~戦争合奏曲  作者: 改案堂
第三章 Diabolous in Musica/音楽に潜む悪魔
119/144

119 tr19, world of pain/痛みの世界

「ふー、今度こそダメかと思った。

 改めてありがと、アタシはアンゲラ、リーヴァ氏族のアンゲラ。

 どうせアンタもひいじいちゃんから聞いて、アタシの事追ってきたんだろ?」

「さっき言っただろ、連れ戻しに来たんじゃない。

 ここの群れに預けた黒と白のオオカミを引き取って、これからまた旅に出るんだよ」

強張った身体を伸ばし、全身洗い、オレの準備したパンがゆをぺろりと平らげたアンゲラは、やけに強気だ。


「だってリーヴァの氏族ったら集落の長たる長老連の、しかも外に傭兵へ出る男たちを取り仕切るリーダーだぜ?

 巨人を雇いたかったら、知らない奴はいない筈だし」

「おまえな…人の話を聞かないってよく親から云われないか。

 見ろ、オレだって巨人に負けない身体してんだろ。

 しかも旅の途中だって言ったろ、傭兵なんて雇う理由がない」

「じゃあアタシが美人だから助けに来た」

「会うの初めてだろ、お前さんなぞ知らん」

「じゃあなんで」

「だから偶然だ。

 オレは自分のルーツが知りたくて巨人の村に行ったんだが、入れてもらえないどころかオオカミ退治までして出た報酬は食べ放題だけ、しかも荷物まで届けるよう渡されてよ。

 まああの最長老?オレより頭一つ分でっかいけど足腰の起たないヨボヨボの爺さんに頼まれたら嫌とは言えないだろ。

 だがもう関わりたくないんで、さっさとタロとジロを引き取って旅を続けたいだけ」

「えっ、ひいじいちゃんの事だよな?その爺さんって」

「ああ、確かにひ孫のアンゲラを見かけたら心配してたと声掛けてくれ、って言われたが」

「バッカでー、ひいじいちゃん超元気だぜ?

 80歳超えてる癖にうちの氏族で一番強いんだ、アタシだって敵わねー」

「マジか」

「マジだ」

「思いっきり騙された、完全にただ働きじゃねーか。

くっそー、重ね重ね奴らは…。

 おう、そんなら他のシュレーダーとかいくつかの氏族が襲い掛かってきたのも演技か?」

「あすこの連中は特にヤなやつばっかで、たいして強くもないくせに威張るしやらしいからアタシは嫌い」

「そうか、ならまあ…

 ああそういえば、この荷物の紋章は見覚えあるか?」

「あーっ!それリーヴァ氏族の印!

なんだよ、全部お見通しかよ…。

あーぁ、アンタも帰れって云うんだろ?」

「お前は本当に人の話を聞かないな。

 言ったろ、連れ戻しに来たんじゃねえよ、好きにしろ。

 だがお前さんこそ、これからどうすんだそんな軽装で。

 ほぼ手ぶらだろ、その小包だって旅の荷物が入るほどの大きさじゃない」

「そんなの分かんねーだろ、今開けるから見てろよ。

 袋の中にアタシのリュックと…あとあんたの分かな?別になった袋もある。

 そっちはあげる。

 リュックの方はアタシの服と布が数枚、革袋、革紐、火口箱、あと縫い針なんかの小物だけ…

 ど、どうしよう…」

「よくここまで生きて来れたな…

 そもそもなんでそんな無計画に集落の外をウロウロしてんだ」


「こないだ、ヨルグおじさんが来たんだよ。

 一緒に来たのってあんただろ?

 そのとき隙をついて逃げ出してきたんだよ。


 アタシの住んでる巨人の集落はね、男どもは好きに外へ出入りできるくせに女は絶対出してくれないんだ。

 しかもそれで男どもは威張りちらしてさ、特にシュレーダーの連中なんてやりたい放題ひでーもんさ。

 外で手に入れた物見せびらかしちゃあ女の関心を引こうとしやがってさ。

 だいたい傭兵ったってアタシより弱い男連中がホイホイ外に行くのが気に入らないから、ひいじいちゃんに何度もお願いしたのにダメって言われ続けてさ。

 知ってんだろ?最近じゃ「用心のため」とか抜かして離れ小島に隔離までし始めてよう。

 集落の外は絶対に広くて楽しいところに決まってんだ!

 アイツらだけ楽しんで、アタシたち女だって行きたいのに!

 もうあんなとこは嫌だ!絶対帰りたくない!


 ハッ、そうだ!

 アンタ旅人なんだろ?

 アタシを外の世界へ連れてってよ。

 どのみちこのままじゃ行き倒れだ、護衛でも何でもするから!お願い、いやお願いします!」


あのひいじいさんにしてこのひ孫ありだなあ。

「そんなに甘いもんじゃないぞ、それに動機が不純すぎるし護衛も要らん。

 ただ楽しみたいだけなら、精々騙されて使うだけこき使われてボロ雑巾みたいになってからポイ、が関の山だ。

 オオカミたちを調べた報酬に、あの村の事情は聞いた。

 女性を外に出さないのは、子孫を増やすために保護するってちゃんとした理由があるだろ。

 いくら腕っぷしがあったって、剣が強いだけじゃ生き残れないんだよ。

 お前さんと同じ名前のアンゲラさん、ナージャシュディさんの娘な、彼女はこんなはねっ返りじゃなかったって聞いたぞ」

「またひいじいさんに騙されてら。

 本当は結構なじゃじゃ馬で、地元から飛び出してオスロやフィヨルドで活躍して、冒険の末にアンデシュ様と出会ったんだぜ。

アタシは母ちゃんからそう聞いた。

アンゲラの大冒険ってお話もあるくらいだ。

あと飢饉や厳冬で何度か全滅しかけたのは本当だけど、巨人の女は美人が多いし、男は嫉妬深いから独占したくて閉じ込めたってさ。

だから近所の村の人間や行商人だって、アタシら会ったことない。

戦も商いも男の仕事。

 偶然行き会わなきゃ、集落以外の人間と若い女が会うことなんてほとんどないよ」


「ずいぶんと話が違うじゃねえか…。

 同情の余地はあるのか、うーん。


 よしわかった、少しの間旅につき合わせてやるよ。

 その代わり、ちゃんと手紙書いて父ちゃんと母ちゃん、あとひいじいちゃんには心配かけんな。

 手紙は何とかしてここのオオカミたちに届けてもらうから」

「えっ、アタシ字書けないよ?」

「勉強サボりすぎだろ」

「違うよ、字の読み書きも男の仕事でしょ。

 女連中は教えてもらえないし、必要ないって」

「マジか」

「マジだ」

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