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War Ensemble/ウォー・アンサンブル ~戦争合奏曲  作者: 改案堂
第三章 Diabolous in Musica/音楽に潜む悪魔
118/144

118 tr18, raw caress/粗野な抱擁

空振り、だな。

巨人の血の由来は分かったが、オレの目的とは違う。

むしろ体よく利用されただけ、あの後さらに『旅の中でこの紋章が判る人間がいればその者に、そうでなければノヴゴロドのロマ一族に渡してほしい』と小包まで押し付けられた。

そろそろ荷物いっぱいになるぞ。

まあいい、さっさとタロとジロを迎えに行って、次の目的地へ行こう。


棺桶リュックを背負い、古参スコルの巣穴を目指す。

そういえばヤツの個体識別名は『ロボ』、フィヨルドでも指折りの長生きで、少なくとも30年以上は目撃例があるとか。

通常のハイイロオオカミなら寿命は6~15年、前世の飼い犬で中型犬でも20年前後だったはずだから相当な長寿だ。

しかも現役リーダーとか…資質や才覚なんだろうか、魔力によるものか。



馴れない山岳地帯の森林は移動しにくい。

時々木の上にのぼり現在位置を確認しつつ前に進む。

夜には先日よりずっと近くで遠吠えを聞いたので、監視から護衛にでも切り替えたんだろう。

巣穴に近くなると向こうも気が緩んだのか、オレが狩りをして解体作業しているとちゃっかりおねだりしに来た。

タロとジロが居ない分肉も余りがちなので、ホイホイあげたら喜んで食べていた。



十日ほどの森林移動を経て、巣穴に到着。

タロとジロは…いた。

なんだよ、群れの若いスコルと随分仲良さそうじゃねーか。

オレを見かけると、尻尾をぶんぶん振って駆け寄ってきた。

「どうした、アイツら気に入ったか?お前たちさえ良ければ、ここに残ってもいいぞ」

皮肉ではなく本心のつもりだったんだが、シュンとしてすり寄ってきたのでここの群れに残るほどではなかったらしい。


オレが到着したことは群れ全体に知れたようで、古参スコルのロボもオレたちの方に来た。

来るなり『ガウッ』とひと吼えし、服の裾を引っ張る。

「なんだなんだ、どっか連れてくのか」

ぐいぐい引っ張られ、やがて広場から少し外れ沢に近い辺りの、ちょうど根元が洞のようになっている木まで来た。

洞には群れのオオカミが控えめに隠れて様子を見ており、中に何か居そうだ。

ロボに今度は背中をグイグイ押され、フンッと息を掛けられた。


「…っひ、ううっ…」

洞から声がする。

スオミ語か、若い女性のような…まさか。

「おい、大丈夫か」

「ひぃぃ、ヤメテ殺さないで!」

「どうした、迷子か?」

「い、いや!アタシなんて美味しくないよ!ちょっと寄り道しただけだから!見逃して!」

錯乱してんな。


ロボの方を見ると、フンッとまた息を吐き、隠れていた通常サイズのオオカミと共に巣穴の方へ行ってしまった。

タロとジロは、さっきのスコル達の方に戻ってイチャイチャしてやがる。

ロボたちは、オレとの約束を守って人を襲わずに保護したのかもしれない。

だとしたら、動物の方がよっぽど義理堅い。



しばらく入口付近で座り、落ち着くのを待つ。

革袋を取出し水を飲んでいると、やがて洞からそーっと薄汚れた赤髪の頭が顔を出す。

「…アンタ、アタシを食べに来たんじゃないの?」

「あいにく人肉を食う趣味はない」

「だってあんた、スコルの化身でしょ」

「違う、ただの人間だ」

「じ、じゃあ…済まないけど、水を少し分けてもらえない?

 のどがカラカラで死にそう」

確かに、かなり皺枯れて声も出し難そうだ。

「ほら、全部やる」

差し出すと同時にひったくるようにして袋から水を押し込むように飲み込む。

急に動いたせいで咳き込み、再び苦しそうに倒れ込む。

「落ち着け、後で食べ物もやるから。

 その様子だと食事も碌にとってないだろ」

「先を急ぐんだ、直ぐに出たいから喰いもんくれ」

「ゴラ、まずは『お水をくれてありがとう』だろ。

 まともに動けないのに何言ってやがる」

「…悪かった。疲れててどうかしてた。

 水をくれてありがとう。それから、あんた本当にスコルの化身じゃないのか」

のそのそっと洞から這い出る、赤髪で大柄な女性。

まさか。


「お前さん、もしかしてアンゲラって名前じゃないか?」

「げっ、追っ手!?

 あれ?アンタ巨人だけど見覚えのない顔だね、外からの雇われ?

 どっちにしてもアタシはもう集落に戻らないよ!」

ビンゴか…まさかここまで仕込みってことは無いだろうが、こりゃまずいな。


「いや、連れ戻しに来たわけじゃあない。

 オレはケイン、外部から巨人の集落を訪ねて来たんだが、結局入れてもらえなかったから次の目的地に行く途中の…旅人だな。

 身体はデカいが、れっきとした人間だ。化身なんてもんじゃない。

 そこの広場はスコルや狼たちの群れの巣穴があって、ヤツらとは話が付いてる。

 お前さんから手を上げなきゃ、襲われることはない。


 とりあえず落ち着いたら出てきな。

 水袋無しでここまで来たってことは、そこの沢沿いに遡ってきたんだろ?

 集落の連中はここまで追って来れないだろうから、まずは落ち着い体をほぐして、そしたら水浴びでもしてきな」

数日間は洞穴で過ごしたであろう生理現象の臭いや、先ほどの失禁に自分で気が付く頃合いだ。

「バカッ!エッチ!ヘンタイ!ツルッパゲ!付いて来んなよ!覗くなよ!」

安心したら途端に威勢が良くなったな、元気で何より。



何日も縮こまっていたせいで強張った全身の筋肉を懸命に動かし沢まで這い行く女性を、生ぬるく見守った。

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